研究課題
本研究の目的は、カルシトニンによる血中カルシウム濃度調節機構の進化を解き明かすことにある。モデルとして、円口類(ヌタウナギ)と軟骨魚類(アカエイ)を用いる。本年度は、軟骨魚類アカエイから、カルシトニンcDNAをクローニングした。RT-PCRの結果、アカエイのカルシトニンは鰓後腺で顕著な発現が認められた。さらにアカエイカルシトニン抗体を作製し、競合ELISA法の系の確立を行った。合成アカエイカルシトニンペプチドによる検量線を作製した結果、その信頼度は高く、ELISAの系を確立することができた。またアカエイの胃に高カルシウム溶液を投与した結果、投与0.5時間で血中カルシウム濃度が上昇し、3時間でピークを迎えた。このようにアカエイの血中カルシウム濃度上昇をコントロールする実験系を確立することが出来た。一方、円口類のヌタウナギにおいては、ゲノム配列からもう1つのカルシトニン遺伝子を同定した。このカルシトニンをヌタウナギカルシトニン2と、最初に同定したカルシトニンをヌタウナギカルシトニン1と名付けた。カルシトニン1と2は70%のアミノ酸配列の同一性を示した。さらにこれらの合成ペプチドを作製し、ヒトカルシトニン受容体との応答性を検討した結果、カルシトニン1と2はヒトカルシトニン受容体に作用し cAMP濃度を上昇させることを明らかにした。濃度依存解析を行ったところ、サケのカルシトニンと同程度の活性を示すことを突きとめた。一方、3つのカルシトニン受容体候補を、単離し全長配列を決定した。それらの推定アミノ酸配列のモチーフを解析した結果、1つの遺伝子において細胞外領域にホルモン結合ドメインを2つもつことを確認した。この特徴は魚類のカルシトニン受容体に顕著なものであるので、ヌタウナギカルシトニンと結合すると予想される。
3: やや遅れている
ヌタウナギにおけるカルシトニン2の発現が確認できていないため、その解析が遅れている。偽遺伝子の可能性も否定できない。これまで、様々な組織で発現を検討したが検出できなかった。しかしながら個体数が4と少なく個体差による検出不能の可能性もあるので、さらに個体数を増やし発現を確認する。発現が認められない場合は、カルシトニン1のみを解析対象とする。
アカエイにおいては、カルシウム投与実験における血中カルシウム濃度上昇とカルシトニン濃度の相関関係をELISA解析で検討する。またカルシウム上昇時に鰓、消化管、腎臓といった血中カルシウム濃度調節に重要だと考えられる組織を採取し、カルシトニン受容体の発現量の変動を解析する。ヌタウナギにおいては、カルシトニン2の発現組織を明らかにする。高カルシウム溶液の消化管投与実験を実施、血中カルシウム濃度上昇の有無を確認する。またヌタウナギカルシトニン抗体を作製し、ELISAにより、高カルシウム溶液投与における血中カルシトニン濃度の変動を検討する。
分担者である坂本竜哉教授担当のアカエイ実験が次年度に集中するため、予算を次年度に集中させた。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件)
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