研究課題/領域番号 |
18K06314
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
伊藤 竜一 琉球大学, 理学部, 准教授 (50322681)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ストロミュール |
研究実績の概要 |
高等植物における非光合成(非緑色)プラスチド(色素体)においては,「ストロミュール」と呼ばれる細管状構造が高頻度で形成される.申請者は,葉表皮においてストロミュールの形成・伸長が過剰なシロイヌナズナ変異体(stromule biogenesis altered [suba] 変異体)を2種取得した.本研究は,suba変異体の研究を通して,非緑色プラスチドがどのようにしてその形態を維持しているかを解明することを目的としている.本年度は,suba1変異体の原因遺伝子の同定を最大の課題として研究を実施した.
申請者が行ってきた解析により,suba1変異体の原因遺伝子の候補は第1染色体上の2つの遺伝子に絞られていた.今回,各候補遺伝子の野生型アリルをsuba1変異体に導入し,この形質転換体で表現型が相補されているかを確認することにより,原因遺伝子を特定することができた.同遺伝子がT-DNAで破壊された既存変異体への蛍光タンパク質遺伝子導入によるプラスチド形態の観察,同既存変異体との人工交配によるアレリズムテストの結果は,どちらも上記の結論を支持するものであった.この変異は,第2イントロンのスプライス部位保存配列 [G]T/AG中の [G] がAに変わるという稀な変異であり,遺伝子同定が難航した原因ともなっていた.RT-PCRなどの方法により,実際にmRNAからの第2イントロンの切り出しが起こっておらず,仮に翻訳が正常に行われるとしても,正常タンパク質よりも短縮したポリペプチドしか生成され得ないことを確かめることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の本年度の研究実施計画は,大別して (1)suba1変異体の原因遺伝子の同定とその発現 (2)PARC6(SUBA2)蛋白質の局在解析 (3)suba変異体における葉表皮プラスチドの発生系譜の解析 の3つであった.このうち,最大の懸案・課題であった(1)は,上の「研究実績の概要」で記述したとおり,成功裏に終えることができた.(2)については,一部の組織・細胞で観察することには成功したものの,当初目標の一つとしていた根の白色体(ロイコプラスト)での観察系の確立には至っておらず,課題を残している.(3)については,観察に必要な各種形質転換植物ラインの作出を終えたところであり,詳細な解析には至っていないが,予備的な観察は既に開始している. 以上の状況を踏まえて,現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と自己評価する.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は以下の通りである.
(1)suba1変異体の各組織・細胞におけるプラスチド形態の詳細な解析.特に,葉肉葉緑体の分裂・形成にsuba1変異が与える影響を定量的に評価する.また,孔辺細胞の葉緑体の形態・分化についても,特に着目して研究を進める.また,suba1変異体では,プラスチドのクラスタリングが見られるという新たな観察結果が出てきたことから,この「プラスチドクラスタリング」という新規表現型について詳細な観察・解析を実施する. (2)suba2(parc6)変異体の各組織・細胞におけるプラスチド形態の詳細な解析.特に,葉表皮と花粉のプラスチド形態とその形成過程について,詳細な観察・解析を進める.PARC6(SUBA2)蛋白質の局在解析については,現時点では有効な解決策を見出すことができていないため,いったん棚上げとする. (3)suba1,suba2変異体における葉表皮プラスチドの発生系譜の解析.上でも記したとおり,本年度は,必要な形質転換植物ラインを準備することができたので,次年度はこれらのラインを使用して,ストロミュール過剰形成の表現型(suba表現型)が発生過程に沿ってどのように生じるかについて,茎頂分裂組織L1層,更には胚まで遡って追跡する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画においては,論文投稿料および論文英文校閲の費用を「その他」に計上して申請していたが,本年度は当該支出が無かったため,実支出額が当初計画よりも小さくなった.次年度は,論文投稿料としてこれを充当したい(論文投稿料は価格高騰の傾向にあり,当初申請よりも高額となる見込みであるため).
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