研究課題/領域番号 |
18K06317
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
川田 健文 東邦大学, 理学部, 教授 (30221899)
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研究分担者 |
村本 哲哉 東邦大学, 理学部, 講師 (10612575)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | lncRNA / 細胞性粘菌 / STAT / イメージング / 形成体(オーガナイザー) |
研究実績の概要 |
長鎖ノンコーディングRNA (lncRNA)は多様な制御メカニズムで生体内において多様な機能を司っていることが知られているが、機能について詳しく調べられたlncRNAのほとんどは核内に存在するlncRNAであり、細胞質に存在するlncRNAの機能について詳しく調べられたものは限られている。しかしながら、最近の研究ではむしろ細胞質のlncRNAの方が多いという報告もある。研究代表者らは、真核多細胞微生物である細胞性粘菌の細胞質lncRNAである dutA RNAが、発生後期におけるオーガナイザー(形成体)領域で中心的なシグナル分子として機能する転写因子STATaの活性を調節することで未分化状態を調節していることを明らかにしてきた。 本研究では、発生におけるdutA RNAの機能を詳しく知るために、2018年度にはまずdutA RNAの正確な局在解析をRNA-FISH法によって解析し、発生過程で組織特異的な局在が劇的に変化することを示した。そこで、そのような動態変化を補完する目的で生体組織中での可視化を試み、dutA RNAのダイナミズムを把握することを目指した。また、lncRNAの機能解析にはRNA結合タンパク質の同定は欠かせないが、2018年度までに3 x MS2ループを用いたMBP-trap法によって多数のdutA RNA結合タンパク質が多数存在すること、質量分析とRNA免疫沈降 (RIP実験)によって4つのdutA RNA結合タンパク質を同定した。さらなる種類の結合タンパク質を同定し、dutA RNA-タンパク質複合体組成を分析することで、dutA RNAがどのような機序で形成体から消失するかを解明し、細胞質lncRNAの組織特異的な消失によるダイナミックな分化スイッチのメカニズムを提唱することを最終的な目標とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は上手く進捗しなかった部分と予想とは違う方向に進捗した部分があり、当初のテーマに限れば進展具合はやや遅れている。 まず、進捗しなかった部分はイメージング技術の開発である。2018度までに得られたMS2-GFPを低レベルに発現する株においてもdutAに特異的なシグナルが得られなかったことから、2019度は新規にdutA KO株中で3 x MS2 loopを持つdutA RNAとMS2-GFPを共発現する株を作製した。しかし、この株でもノイズが高かったためにdutA-3 x MS2とMS2-YFPを1コピーずつ導入して共発現する細胞株を作製した。また、dutA RNA結合タンパク質の同定も苦労した。2018年度までにMBP-trap法で4種類のタンパク質を同定できたが、もっと多種類の結合タンパク質があることが示されていた。これらを同定するためには、それまでの方法では収量が足りず、精製法を改良する必要があった。そこで、2019年度は細胞を固定せずに精製することを試み、bufferの組成を工夫した。また、上記のイメージングに用いた株を転用し、GFP抗体で免疫沈降したところdutA RNAが共沈殿された。このことから、効率的に精製できる方法がほぼ確立出来た。しかし、方法の確立に時間を要してしまい、タンパク質の同定までは出来なかった。 一方で、その他の研究計画は予想以上に進展した。2018年度までにdutA RNAがどの様にSTATaの活性化状態に作用しているかについて調べるために、新規のノックアウト株、過剰発現株を作製した。2019年度はこれらの表現型を解析し、STATa関連シグナル遺伝子のmRNAの量が変動することを見出した。また、網羅的に変動するmRNAを同定する目的で、RNA-seqを行って多数の発現変動遺伝子を同定した。現在これらについての検証実験を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で提案した方法でdutA RNAの動態を観察することは容易ではないが、注意深く複数の株と比較することで可能と思われる。Negative controlとして、3 x MS2 loopを有するmRFP発現株が作成できたので、YFPとRFPの共局在がないことを調べる。2019年度にdutA KO株にMS2-YFPと3 x MS2を有するdutA RNAを発現するベクターを共に低コピーで発現する株を得た。この株におけるYFPのシグナルをRNA-FISHによるdutA RNAの局在と比較する。 dutA RNAがどの様に作用しているかについて、dutA RNAの変動によって、STATaシグナルやその他のmRNAの量が変動することを見出した。現在、RNA-seqによって得られた変動遺伝子の発現の検証をしているが、今後はこれらの機能解析も行う。また、dutA RNAがどの様にSTATaシグナルに影響を及ぼすかについては依然として不明の点が多く残っている。今まではSTATaのリン酸化に影響を及ぼすのではないかという観点から解析してきたが、dutA RNAがSTATaのリン酸化に及ぼす程度は僅かであった。予備データとしてリン酸化されたSTATaとdutA RNAの局在は一致しないということから、全てのSTATaを認識するpanSTATa抗体を作製した。また、STATaプロモーター制御によるYFP-STATa発現コンストラクトを導入した、YFP-STATa発現株を得た。dutA RNA量の変化がSTATaの核移行に影響するかも知れないと言う予備知見を得たので、非リン酸化STATaの挙動についても解析する。 さらに、2019年度に改良されたdutA RNA結合タンパク質の精製法を用いて新規のdutA RNA結合タンパク質の同定を行い、複合体の全貌を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定ではほぼ過不足なく使い切れるはずであったが、未同定の多くの種類のdutA RNA結合タンパク質の精製のために必要な精製方法を改良することに予想に反して時間がかかってしまい、大きな費用を占める質量分析の費用を2019年度に使用することができなかった。 この余剰分は2020年度に質量分析の費用として回し、2020年度交付分は、それによって得られたタンパク質の遺伝子のクローン化とそれらの機能解析、2019年度にRNA-seqで得られたdutA RNAの変動によって発現が変動する遺伝子群の機能解析、dutA遺伝子変異体におけるSTATaの核移行メカニズムとマーカー遺伝子発現の解析、dutA RNAのイメージング技術の改良を行うための費用として使用を計画している。
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