研究課題/領域番号 |
18K06320
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
岡 敦子 日本医科大学, 医学部, 教授 (50175254)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 幹細胞 / ニッチ形成 / 消化管 / 甲状腺ホルモン / 変態 / シグナル伝達経路 / アフリカツメガエル |
研究実績の概要 |
両生類幼生の小腸では、変態期に甲状腺ホルモン(TH)の作用により、Ror2を特異的に発現する細胞(予定幹細胞)が成体幹細胞へと脱分化し、その周囲にニッチが形成される。本研究は、アフリカツメガエルの小腸を実験材料として用い、幹細胞ニッチを形成する分子基盤の解明を目指している。 本年度は、独自に作製したトランスジェニックカエル(Tg)の小腸を使い、Ror2を指標に予定幹細胞を同定し、予定幹細胞とそれ以外の上皮細胞(THにより細胞死を起こす幼生固有細胞)との間でTH受容体(TR)の発現やヒストン修飾にどのような違いがあるかを免疫組織化学的に解析した。その結果、予定幹細胞はTRaを発現するが幼生固有細胞は発現しないこと、予定幹細胞では変態期にTH濃度の上昇に伴ってヒストンのアセチル化が促進されること等を見出した。これらの結果は、予定幹細胞の脱分化にはTRaが中心的な役割を果たしており、TRaの発現量の違いにより予定幹細胞と幼生固細胞の間で幹細胞出現前にepigeneticな違いが生じていることを示唆している。 この他、Hippoシグナル伝達経路に関連する遺伝子の発現解析も始めた。現在までに、Hippo経路の主要な遺伝子であるYap1の発現がTHにより誘導され、幹細胞出現時には幹細胞自身とその近くの繊維芽細胞でYap1が発現していることを明らかにした。さらに、これら幹細胞近くの繊維芽細胞では、ヒアルロン酸合成酵素の1つであるHAS2も発現し、標準Wnt経路を活性化して幹細胞の発生を促進することを見出した。これらの結果は、幹細胞出現時にその近くに密集する繊維芽細胞が、Hippo経路を含む複数の経路を介して、幹細胞ニッチの形成に重要な役割を果たしていることを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ror2遺伝子の転写調節領域に蛍光タンパク質GFPをドライブさせたコンストラクトを導入してTgカエルを作製し、この幼生の小腸では、GFPを検出することによりRor2を発現する予定幹細胞を容易に同定できることを蛍光顕微鏡下で確認した。このTgカエルの小腸を使うことにより、当初の計画通り研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、Taz、LATS等、Yap1以外のHippo経路に関連する遺伝子についても発現解析を進め、各遺伝子の発現パターンと幹細胞発生との時間・空間的関連について明らかにする。また、Yap1は不活性化すると核移行して標的遺伝子の転写を促進することが知られているため、Yap1蛋白質の核局在の有無についても免疫組織化学的に調べ、その働きを予測する。さらに、予定幹細胞を含む培養系を使ってYap1の阻害実験を行い、Hippo経路が他の経路に及ぼす影響や幹細胞の発生に果たす役割を免疫組織化学およびRNA-seq解析等により明らかにしていく。 また、本年度の結果より、ニッチ形成には幹細胞近くに密集する繊維芽細胞が重要であることが示唆されたことから、これらの繊維芽細胞に着目し、その分子細胞学的解析を行う。さらに、予定幹細胞を含む培養系を使い、各種の抗体や阻害剤を用いて幹細胞周辺の結合組織を変化させ、どのような繊維芽細胞や細胞外マトリックスの変化が、Hippo経路や幹細胞の発生にいかなる影響を及ぼすのかを解析する。以上の実験結果を基に、幹細胞ニッチ形成に関わるシグナルネットワークの全容を明らかにしていく。
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