研究課題/領域番号 |
18K06321
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
中田 友明 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 講師 (50549566)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フェロモン / ソデフリン / アイモリン / イモリ / 両生類 / 性行動 / 配偶者選択 |
研究実績の概要 |
繁殖期のアカハライモリの成熟雌は雄個体が求愛に際して分泌する性フェロモンペプチドであるソデフリンに誘引されるが、このフェロモンの主な受容器は鋤鼻器の感覚神経であり、その軸索は副嗅球へ投射することが先行研究でわかっている。当該年度は前年度に引き続き(1)ソデフリン受容体を発現する細胞を選択的に破壊しうるtarget toxinを投与した雌イモリの鋤鼻上皮に発現するmRNAをtarget toxin投与前の状態とトランスクリプトーム解析によって比較するとともに、(2)同様に雌イモリのソデフリン応答を消失させる外科的処理である脳下垂体と卵巣の除去を行い、処置前後の雌イモリの嗅覚上皮に発現するmRNAのトランスクリプトーム解析を行って比較した。それぞれの比較モデルの解析では、target toxinもしくは脳下垂体・卵巣除去の処理に先立って、ソデフリンに対して応答する雌イモリの片側の嗅覚上皮を外科的に採集、mRNAを抽出した上で、動物の回復後にtarget toxinもしくは脳下垂体・卵巣除去の処置を行い、ソデフリンに対して行動学的応答を示さなくなったことを確認した上で、事前にmRNAを採取した感覚上皮に対して反対側の嗅覚上皮を採集しmRNAを抽出した。こうすることで、単一個体を用いてソデフリンに応答している時期の嗅覚上皮で発現している遺伝子と、ソデフリン応答が消失した時期の嗅覚上皮で発現している遺伝子との比較が可能となった。 解析の結果それぞれの比較モデルで、嗅覚受容体タンパク質をコードする遺伝子を含む多数の遺伝子が統計学的に有意にその発現量を変化させていることがわかった。ソデフリン応答能を消失させる処理に関連して発現変動を見せる遺伝子が抽出されたので、今後は両比較モデルに共通して処理後に発現量が減少した嗅覚受容体遺伝子の中からソデフリン受容体を同定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、対象動物であるアカハライモリの繁殖期(2月~5月上旬)にかけて生殖行動に関わるフェロモンに関する実験を多数企画していたが、新型コロナウイルスの世界的な流行に伴い、大学教務での研究活動以外の業務と併せて、ほとんど全ての新規実験が計画・施行されない状況となってしまったため。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの世界的な流行による、活動自粛の期間中、在宅勤務などを利用しこれまでの成果をまとめ、学術誌に投稿するための準備をするなどしているが、実験計画と進捗の遅れがあり、社会的状況の改善された後に速やかに遅れを取り戻す準備をしている。具体的には、活動再開を待たずに成果論文の投稿を行い、トランスクリプトーム解析(RNA-sequence)などで得られたデータなど、在宅勤務中にコンピューターを用いて処理可能なデータについて解析を進め、生体実験が再開可能となった際に速やかに施行できるようにしている。具体的には、トランスクリプトーム解析によるフェロモン受容能の有無によって発現量に差異を生じた遺伝子のうち、フェロモン受容能の消失に伴って発現量を減少させた嗅覚受容体遺伝子の中からソデフリン受容体を同定する作業を行い、併せて生殖行動を司る内分泌器官である脳下垂体と卵巣の除去が雌イモリの嗅覚上皮に与えた影響を発現量の著しく変化した遺伝子のレパートリーからpathway解析などを駆使して推測し、性行動を司る嗅覚コミュニケーションに対する内分泌学的調節機構に迫ってゆく予定である。
また令和2年度は、本課題研究の最終年度に当たるため、これまでのデータを統括的に取りまとめ、雌雄の性フェロモンによる繁殖コミュニケーションの分子・細部レベルの解析を通じて、種の存続や生殖隔離や種分化すら左右しうる生殖行動の分子メカニズムの解明が有尾類から発展することに大きな期待を持って、今後も研究を継続して行きたいと思っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、対象動物であるアカハライモリの繁殖期(2月~5月上旬)にかけて生殖行動に関わるフェロモンに関する実験を多数企画していたが、新型コロナウイルスの世界的な流行に伴い、大学教務での研究活動以外の業務と併せて、ほとんど全ての新規実験が計画・施行されない状況となってしまったため、当初予算額と若干の差額が生じた。活動再開を待たずに成果論文の投稿を行い、RNA-sequenceなどで得られたデータなど、在宅勤務中にコンピューターを用いて処理可能なデータについて解析を進め、生体実験が再開可能となった際に速やかに施行できるように準備しており、次年度に繰り越された実験での使用を計画している。
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