研究課題/領域番号 |
18K06328
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
廣井 誠 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (80597831)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 記憶 / リカレント回路 / ショウジョウバエ / キノコ体 / 嗅覚 / 連合学習 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
学習記憶のメカニズムを知るためには脳のどの細胞が記憶の形成・維持・読み出しに関わるかを知ることが不可欠である。近年、匂いシグナルはDANs→KCs→MBONsと一方向に流れるのではなく双方向性で、複雑なナットワークを形成していることがわかって来ている。本研究では学習が行われている最中の個体の脳の神経集団活動をライブでモニターし、その活動を統計的推定によって少数に絞り、記憶細胞を同定することを目的とする。さらに近年記憶の固定化に寄与することが明らかになったキノコ体を中心としたリカレント神経回路と、長期記憶の中心的役割を担う転写因子CREB活性細胞との関連について解析することで、短期記憶から安定した長期記憶を形成する遷移を、生理学的に明らかにしていく。 条件刺激の強度・時間的な制御をより細かく行うために、光遺伝学によって任意の嗅覚受容体を発現する神経群を人工的に活性化させる連合学習の系の立ち上げた。ドーパミン神経などの活性化によるリカレント回路の解析がやりやすくなった。今年度は光遺伝学用の行動実験のデバイスに関して、実験時間・光強度・匂い濃度に加えて、それぞれの刺激を与えるタイミングの条件を複数試験し、得られる学習スコアが安定する条件を探った。人工的に活性化する嗅覚神経細胞を変えることによって、低スコアから高スコア様々な学習パフォーマンスが確認された。条件づけする際に活性化するドーパミン神経群を変えることによって、忌避・リワード学習の両方で安定して連合学習ができている。最終年度は、生理学的な応答と行動実験のパフォーマンスを相互に比較し、解析を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なった波長特性の活性化・抑制チャネル(Chrimson/Chronos/GtACR)を発現させることで、条件刺激(CS)と無条件刺激(US)の両方を人工的にかつ強度・時間的に精密な操作でき、回路の生理学的な解析が可能となった。 光遺伝学的手法を行動実験でも行えるようにデバイスを製作した。再現性の良い結果を得るために今年度は、刺激強度(光刺激・匂い刺激)とそれぞれの刺激タイミング条件の組み合わせを複数実験した。昨年の結果より忌避・リワードの両方で学習パフォーマンス指標が0.3-0.4で観察できていた。今年度は、条件づけする嗅覚神経細胞の種類によって、学習パフォーマンスが低スコア(<0.1)から高スコアまで(~0.6)まで影響することを確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
光遺伝学によって嗅覚入力刺激を定量的に行えるようになり、遺伝的に均一な個体間の比較が安定して行える。神経応答の定量的な解析が行え微量な差を検出できることが期待される。行動特性の異なる嗅覚刺激を2、3比較した結果、入力される嗅覚受容体によって学習効率に違いがある可能性が示唆された。リワード学習や忌避学習の効率に違いがあるかより実験を追加する予定である。生理学的に情報経路(DANsやMBON)にどのように伝達されていくかを同定するために、行動実験で得られた条件づけ刺激を用いて顕微鏡下でのカルシウムイメージング実験を行い、行動実験と生理学的実験の関連を考察したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
基金の一部の範囲内で研究を遂行したたため。
|