研究課題/領域番号 |
18K06329
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江島 亜樹 東京大学, 定量生命科学研究所, 協力研究員 (00548571)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経可塑性 / フェロモン / 嗅覚 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
ある匂いを嗅ぎ続けると、やがてその匂いを感じなくなる。これは感覚神経系における馴化現象の一つで、恒常的な刺激を知覚しにくくすることにより、新たな刺激を検知しやすくする機能があると考えられる。本研究では、比較的単純な脳構造をもつキイロショウジョウバエのフェロモン応答をモデルに、匂いの馴化および脱馴化を制御する神経分子基盤の解明を目指す。 オスの求愛意欲を抑制するオスフェロモン成分11-cis-vaccenyl-acetate (cVA)への応答感受性は、フェロモン環境に応じて可塑的に変化する。フェロモン情報の強度は、嗅覚一次中枢内における複数の神経間の相互作用によって調整されるという新たな知見を得たことから、この局所回路においてどのような情報修飾が行なわれているのか、まず、その接続様式を免疫組織学的に解析した。cVAへの応答抑制(馴化)には介在神経への抑制性神経伝達物質γ-aminobutyric acid (GABA)の入力が必須であることから、この介在神経はcVA情報を強化する役割を持つことが推定される。しかし、この介在神経とcVA嗅神経の間に興奮性の化学シナプスは確認されなかった。 次に、この回路内の介在神経特異的に温度感受性の神経活性因子もしくは抑制因子を強制発現させ、一過的に神経活動を亢進もしくは抑制させた時のフェロモン応答を解析し、回路の接続性を検証したところ、介在神経がcVA情報の強化に寄与していることが明らかとなった。 一方、エンハンサートラップ系統のスクリーニングより、オス特異的にcVA糸球体DA1に投射をもつ嗅覚二次神経が見出された。解剖学的特徴から、この神経は、嗅覚だけでなく味覚や聴覚刺激の入力プロセッシングの役割をもつ可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者のこれまでの研究から、オスフェロモン11-cis-vaccenyl-acetate (cVA)への嗅覚馴化には嗅覚一次中枢内における介在神経への抑制性神経伝達物質γ-aminobutyric acid (GABA)の入力が必須であることが明らかとなっている。では、この介在神経はcVA情報の伝達経路においてどのような役割を持っているのか?当該介在神経は、cVA嗅神経と同一部位(糸球体)に投射をもち、GABAによる抑制によってcVA嗅神経応答を低下させている。このことから、この介在神経はcVA嗅神経シナプス前部位に興奮性の接続をもち、情報シグナル強化に寄与している可能性が高いと考え、免疫組織学的解析を行った。介在神経特異的なドライバーとアセチルコリン作動性神経のマーカー抗体または特異的ドライバー系統との多重染色を行ったところ、cVA嗅神経との間に興奮性の化学シナプスは確認されなかった。次に、介在神経特異的に温度感受性の活性因子TrpA1を発現させ、温度制御により一過的に神経活動を亢進させたところ、メスに対する求愛行動が抑制されたから、当該介在神経の活性が求愛抑制回路のシグナル強化に寄与していることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
介在神経とcVA嗅神経の接続様式の解明:これまでの実験結果から、cVA嗅神経と介在神経の興奮性接続は化学シナプスではなく電気シナプスである可能性が示唆された。今後はギャップ結合のマーカー等を用いて免疫組織学的解析を行うことで、その接続様式を明らかにする。また、cVA回路の強化に関与する介在神経が、馴化の過程のどのタイミングでどのように活動しているのか、温度感受性活性因子TrpA1もしくは抑制因子shitsを導入した個体を用いて検証する。cVA嗅神経を同様に活動制御した場合の馴化効果と比較することで、可塑性を生じさせる「記憶神経」を同定することを目指す。 脱馴化現象回路の同定:また、異なる感覚刺激により匂いの馴れが消去される脱馴化の現象について、機械刺激によるフェロモン馴化の消去をモデルとして関与する神経回路を見出し、その生理現象を明らかにする。 cVA糸球体に投射する二次神経の役割:エンハンサートラップ系統のスクリーニングより、オス特異的にcVA糸球体DA1に投射をもつ嗅覚二次神経が見出された。解剖学的特徴から、この神経は、嗅覚だけでなく味覚や聴覚刺激の入力プロセッシングの役割をもつ可能性が高く、神経活動の抑制や亢進によってオスの求愛行動がどのように変化するのか解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
飼育バイアルなどの消耗品についてまとめ買いにより想定価格より安価で入手できたため。次年度の消耗品費と論文発表費用にあてる。
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