研究課題/領域番号 |
18K06334
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
早坂 直人 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任准教授 (80368290)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | SIK3 / リン酸化シグナル / 概日時計 / 睡眠 / ノックアウトマウス / リン酸化基質 |
研究実績の概要 |
本研究ではいかの3つを目的とし、研究を実施してきた。各項目について、現在までの実績を概説する。 1) 概日リズム制御において、SIK3が関与するPER2分解経路の詳細を明らかにする。また、既に報告されたCKIのリン酸化によるPER2の分解促進機構とは異なる経路が存在する意義について、各々の機能の差異に注目して明らかにする。この目的を達成するために、代表者はSIK3によるPER2の分解経路の候補として、オートファジーに注目した。SIK3のKO細胞やSIK3過剰発現細胞と正常群でのオートファジーマーカーの量的比較を実施した結果、SIK3の発現オートファジーマーカーの発現には有意な相関が見られた。現在、オートファジーのどの経路にSIK3のリン酸化が作用しているのか、詳細に検討中である。 2) 概日リズム、睡眠、代謝の制御に独自に、あるいは共通して関与するSIK3の新規基質候補を同定し、注目すべき分子に焦点を当ててSIK3シグナル伝達経路に果たす役割を解析する。現在のところ、PER2以外に、HDAC class IIの複数のタンパク質や、ケモカイン(受容体)、CRTC群、時計タンパク質、オートファジー関連タンパク質など、多くの基質候補群を同定し、解析を進めている。 3) SIK3による概日リズムの制御が睡眠や代謝に及ぼす影響について、概日時計中枢特異的なSik3遺伝子組換えマウスや細胞を用いて検討し明らかにする。神経特異的、グリア特異的、あるいは神経系特異的Sik3 KOマウスを作製し、行動リズム測定と並行して、同じ個体で睡眠測定を実施してきた。これまでに、神経またはグリア特異的なSik3 KOマウスで、活動リズムと睡眠の双方の異常が観察され、SIK3シグナルが概日時計と睡眠という、これまで全くのブラックボックスであった相互作用の実態を分子レベルで繋げる経路の一部であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、本研究の3つの課題である1) SIK3の基質PER2の分解経路の同定、2)SIK3の新規基質候補軍の同定、3)SIK3が概日リズムを介して睡眠や代謝を制御しているとの仮説のin vivo検証、の3つを並行して進めてきた。その結果、各項目ともに、1)オートファジー系がPER2分解促進に寄与している可能性、2)ケモカイン、時計タンパク質、転写抑制または促進の共因子群、オートファジー関連因子群など、多くのSIK3基質候補群を同定、3)神経あるいはグリア特異的Sik3 KOマウスで、概日時計の異常に加えて睡眠異常も見いだした、との成果を出してきた。以上の研究成果を踏まえると、今後さらなる本研究の進展が期待される。本研究課題で注目したSIK3シグナル研究は、今日では睡眠と概日リズム(体内時計)を分子レベルで繋げる史上初の発見として、日本発信の報告が世界的に注目を集めてきている。本研究のさらなる進展が、脳神経疾患の多くで報告され、また、ストレス社会で増加傾向にある多様な睡眠障害(不眠、入眠障害、早朝覚醒など)や概日リズム障害(不登校、社会生活の破綻等に関連する「生活リズムの乱れ」や、遺伝、環境要因双方の関与が示唆される睡眠相遅延または前進症候群など)の病態解明に寄与することが期待される。 一方、本研究の遂行と目標達成に当たっては、代表者が置かれている研究環境の整備に課題が残されているのが現状であり、2018年度に限っても、研究に十分なエフォートを割くことが困難な状況であったことは事実である。したがって、海外の国際学会等を初めとして、当初の予想以上の研究成果が得られたとの対外的な評価を受けた反面、計画通りの実験研究が一部実現できなかったとの自己評価もせざるを得ない。以上の点については、研究協力者その他の関係者らと共に、現在大学に改善を求めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は2019年度から否応なく客員研究者となったことから、次年度の研究遂行に困難を来している。現在は研究協力者や共同研究者の支援を受けて、公的な競争的研究資金の交付を受けて開始した本研究を継続し、一定の達成目標をクリアすることが責務と考え、現在も最大限の努力を続けている。前項でも触れたように、研究環境の整備が研究継続に不可欠な最低条件であるとの判断から、現在大学関係各部局や代表者らとの協議を重ね、大学への改善への協力をを求めているところである。進捗状況の項で既に述べた通り、研究テーマの世界的な注目度と社会的ニーズ、科学的な新規性や独創性に鑑み、本研究の論文化に向けて全力で取り組む所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度実施予定であった海外での研究成果発表を次年度に延期したのが主たる理由である。本年度はフランスで開催されるヨーロッパ国際リズム学会(EBRS, リヨン、フランス、8月)での発表を予定しており、そこで繰り越した予算を主として出張費や参加費等に充当する計画である。
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