研究課題/領域番号 |
18K06335
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
谷村 禎一 名古屋大学, 理学研究科, 招へい教員 (20142010)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 本能行動 / ショウジョウバエ / 探索行動 / ナビゲーション / 摂食行動 / 味覚 |
研究実績の概要 |
昆虫の位置情報認識の神経機構を理解するために、キイロショウジョウバエの糖探索行動を制御する神経回路を同定する。空腹のショウジョウバエは、少量の糖溶液を摂取してなお空腹であると、糖溶液があった場所の周囲を歩行探索しつつ、糖溶液があった場所に戻ってくる連続した探索行動を1分間ほど行う(Murata et al., 2017)。この行動はハエが満腹時には起こらなく、さらなる糖溶液を求めて起こる定型的行動である。行動の重要な要素はハエが平面上の自分の位置と糖溶液があった位置を認識できることである。この行動に視覚、味覚、嗅覚などの感覚情報が関与しているのかを調べた。探索行動は暗黒条件でも起こるので視覚情報の関与はないと考えられた。しかし、ハエは、糖溶液があった場所を、視覚情報と合わせて手狩りとしている可能性が示唆された。次に、同じ経路を重ねて歩行しているかを調べたところ、視覚を用いて一部は同じ経路を歩いていることがわかった。嗅覚突然変異体系統も野生型と同様な探索行動を示したので、嗅覚情報の関与はないと考えられる。また、外部味覚感覚器が機械感覚器に遺伝的に転換したハエも探索行動を示すことから味覚情報の関与も否定できた。さらに、糖摂食直後に新しい場所に移動させても、置かれた場所を起点として探索行動を行うことがわかった。これらの結果は、脳内に位置情報を認識する神経機構があることを示し、今後の実験計画に重要な知見を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験条件をさらに検討する必要があったために上記欄に記述した実験を行なった。さらに、Janelia Research Campusにおいて確立されたGal4系統のデータベースであるFlightLightの画像を検索し、味細胞が投射する食道下神経節から中心体方向に投射するニューロンで発現が見られるGal4系統を取り寄せた。まず摂食行動に対する関与をスクリーニングして候補系統を選んだ。今年度はこれらの系統を用いて糖探索行動に関わるニューロンを調べる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果に基づき実験計画にある実験を行う。これまでの数種の昆虫も用いた研究によって、脳内の中心複合体が昆虫の運動を制御するセンターであると考えられている。中心複合体のどの神経群がどのように関わっているかを解明するために、ショウジョウバエにおいてGal4/UAS法を駆使する。Gal4/UAS法は、限定された神経細胞で任意の外来遺伝子を発現させることができる。この方法を用いて、脳内の特定のニューロン群を光学的あるいは熱的刺激により神経興奮させて、糖探索行動への影響を調べる。protocerebral bridge, ellipsoid bodyとfan-shaped bodyの一部に発現がある多数のGal4系統が確立されている。Gal4が発現している特定のニューロン群を遺伝的に人為的に抑制あるいは興奮させる。UAS-Shi[ts]:30-35℃ほどの高温におくことによってシナプス伝達が可逆的の阻害できる、UAS-TrpA1:同様に高温におくことにより、ニューロンを強制的に発火させる、UAS-channel rhodopsin(ChR):改良型のReaChRを用いることで、赤外の光刺激で頭部深部のニューロンを発火させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、既存の試薬、実験装置でほとんどの実験を行うことができたため、購入物品は予想より少額で残額が生じた。また、旅費は旅程を吟味検討し節約できた。同時に、物品費および特に旅費が次年度に多く必要であることが予想された。以上の結果、残金を繰越すことになった。
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