研究課題/領域番号 |
18K06336
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
山下 絵美 (川野) 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (80804583)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ロドプシン / 光受容 / 非視覚 |
研究実績の概要 |
近年、無顎類ヤツメウナギ脳において、新規の光受容タンパク質(オプシン)遺伝子を同定し、その新規オプシンが、これまでに知られていない新しい脳深部光受容器官に発現していることを見出した。そこで本研究では、新規オプシンが発現する脳深部光受容器官に着目し、これらの細胞群が、どのような神経細胞に光情報を伝達するのかを組織学的に解析するなどして、ヤツメウナギ脳深部に発現する新規オプシンが関わる新しい生理機能について理解することを目指した。 本年度は、新規オプシン発現細胞を中心とした神経ネットワークを明らかにすることを目指した。まず初めに、神経トレーサー法による組織学的解析を行うための実験系の立ち上げに取り組んだ。そこで、新規オプシンを発現する脳深部光受容細胞に対して、局所的に神経トレーサー物質を取り込ませ、細胞の神経繊維を標識する手法の確立に成功した。次に、神経トレーサー法の実験系を用いて、ヤツメウナギ脳深部の新規オプシン発現細胞に対する順行性標識を行い、光受容細胞の軸索末端部までを可視化することで、これらの細胞群が投射する神経領域を特定することができた。それに加えて、投射領域について免疫組織化学的に調べることで、新規オプシン発現細胞が神経連絡する組織の特徴を明らかにすることができた。これらの結果から、新規オプシン発現細胞を中心とした神経ネットワークの解明に向けた組織学的知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、硬骨魚類における脳深部光受容器官の候補領域で発現する光受容タンパク質やシグナル伝達分子の同定を目指していたが、残念ながら今年度にこれらの解析を終えることができなかった。一方で、本研究で着目するヤツメウナギの脳深部光受器官をターゲットとした、神経トレーサー法による組織学的解析については、その実験系の確立に成功した。さらに、その実験系を用いることで、新規オプシン発現細胞の軸索末端までを標識・可視化して、投射領域を特定することにも成功した。今年度の研究により得られた、新規オプシン発現細胞を中心とした神経回路の解明に向けた組織学的知見は、これらの細胞群がどのような生理機能に関わるのかを明らかにするうえで、非常に重要な知見であると言える。これによって、本研究で着目する新規脳深部光受容器官が担う新しい生理機能を理解するための足掛かりが得られたものと考えられ、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ヤツメウナギの脳深部光受容器官に関して、新規オプシンを発現する細胞の光応答などの生理学的解析を行い、本年度に得られた組織学的知見と考え合わせることで、新規オプシンが制御する生理機能の推定を行う。硬骨魚類においては、本年度に引き続き、新規脳深部光受容器官の相同器官の候補領域に挙げられた神経核やその近傍の細胞群における光受容タンパク質やシグナル伝達分子の発現パターンを組織学的に解析し、それらの細胞群を中心とした神経ネットワークについても解析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に予定していた硬骨魚類における新規脳深部光受容器官の相同器官の探索が予定通りに進まなかったために、次年度使用額が生じた。 ヤツメウナギで発見された新規脳深部光受容器官の相同器官が、硬骨魚類などの他の脊椎動物にも存在するのかを検討し、新規脳深部光受容器官の多様性に着目した組織学的解析を進めるために、次年度使用額を使用する。
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