研究実績の概要 |
本研究は、ペプチド作動性チャネルの構造機能相関を解明することを目指して継続している研究の一環であり、軟体動物のペプチド作動性チャネルであるFMRFamide作動性Na+チャネル(FaNaC)を用い、チャネルの細胞外ドメインに変異を導入したチャネルにおいて機能解析を行うことで、チャネルの活性化に関わる細胞外ドメイン構造を特定することを目的としている。 昨年度は、細胞外ドメインに保存されるSS結合がチャネル機能に及ぼす影響を解析し、その結果、細胞外ドメインのサブドメイン構造の一つであるthumbドメインの維持に関わると想定されるSS結合を破壊すると、FaNaCのFMRFamide応答性が失われることが明らかになった。さらにFaNaCの構造モデルを構築し、fingerドメインとよばれるthumbドメインの近くに存在するサブドメインに高度に保存される芳香族アミノ酸を同定し、それらの点変異体の解析から、157,170,174,176,181位の芳香族アミノ酸がFMRFamide応答性に関わることが明らかになった。また、167位のトリプトファンの存在はFMRFamide応答に必須である可能性が示唆された。 本年度は、前年度に同定した芳香族アミノ酸に関する解析を進めるとともに、それらの近傍に存在するループ構造に保存される2つの芳香族アミノ酸の点変異体の解析を行った。また、ドッキングシミュレーションにより、これまでの研究でFMRFamideの感受性に関わることが明らかになったfingerドメインに存在する芳香族アミノ酸が、FMRFamide結合に関わるかどうかを調べた。その結果、157,167,170,174,176,181位の芳香族アミノ酸はFaNaCとFMRFamideの結合に関与しており、188,189位の芳香族アミノ酸はチャネルの活性化に関与している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、FaNaCのfingerドメインのα1、α2ヘリックス、およびその間のループ構造に存在する芳香族アミノ酸に着目した実験を行っていたが、同様な解析をα2ヘリックスの後方に存在するループ構造まで広げ、新たに188位のフェニルアラニンと189位のチロシンが、FaNaCのFMRFamide応答性に関与することが明らかになった。189位アミノ酸変異体チャネルの解析結果は、通常のシークエンシャルな反応モデルでは説明できず、FaNaCの活性化モデルとして、FMRFamideの結合に二つのタイプがあることを仮定するアロステリックモデルがより適していることが明らかになった。 本年度の経費で購入できたワークステーションを使用することにより、前年度末に開始したFaNaCの細胞外ドメインに存在する複数の芳香族アミノ酸がFMRFamide結合部位を構成する可能性を検討するためのドッキングシミュレーションによる解析がはるかに効率的に進んだ。その結果、機能発現実験からFMRFamideの見かけの感受性を変化させることがわかった6種の変異体(Y157V, W167V, F170V, F174V, F176V, F181V)では、野生型チャネルに特徴的にみられるFMRFamideのドッキング構造が欠落しており、残存するFMRFamide結合の割合と、見かけのFMRFamide感受性(濃度反応関係から求まる解離定数)とが相関することが明らかになった。一方、F188V, Y189V変異体では、ドッキングシミュレーションにより推定されるFMRFamideのドッキング構造に大きな変化がみられなかったことから、188,189位の芳香族アミノ酸はFMRFamide結合自体ではなく、FMRFamide結合に続くチャネル活性化において重要である可能性が示唆された。
|