研究実績の概要 |
動物が、環境変化を高感度に感知し、適応的な学習や行動様式の変化は動物の生存戦略に重要であるが、その機構の大部分は不明である。本研究では、学習により行動様式を環境適応的に変化させる機構について、プラナリアをモデルとして解明すること目的としている。本年度は、餌の匂いと光の学習実験系の検討をおこなった。まず、餌の匂い物質としてアミノ酸類、糖類、脂肪酸類のそれぞれの分子に対する反応性を測定することで、反応性の高い分子と濃度を明らかにした。特に、炭素数16-20の脂肪酸と高分子糖(グリコーゲン)に高い反応性を認めた。さらに、飼育水や生息域である水中に含まれるカルシウムイオンの濃度によって、餌の匂いを感じる化学受容器の活性が変化することを発見した。外部に存在するイオンが神経系の活性に必要であることを見いだした始めの例であるため、この発見を活用し、学習効果を人為的に操作する方法を確立中である。 これまでの解析でオクトパミン神経が、餌の匂いと光の連合学習に関わることを示唆する結果を得ている。しかし、オ クトパミンが摂食行動を促進する可能性については既に指摘されている(Sewell, et al, Behav Biol, 1975)。そこでまず、Readyknock法により脳のオクトパミン神経と胴体部(咽頭)のオクトパミン神経が嗅覚や摂食行動に関わるかを検討した。その結果、脳のオクトパミン神経を特異的に阻害したプラナリアでは、匂い応答行動および摂食行動には全く異常は認められなかった。この結果は、脳のオクトパミン神経は、嗅覚や摂食行動の制御には関わっておらず、匂いと光の連合学習を調整していることが示唆された。
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