研究実績の概要 |
キイロショウジョウバエのオス生殖器官 (附属腺) で合成される附属腺タンパク質 (Accessory gland proteins; Acps) は精液中に分泌され,交尾・射精によってメス子宮内に移行して,メスにさまざまな交尾後応答 (産卵促進,交尾拒否など) を引き起こす.附属腺は二種類の上皮細胞 (約1,000 個の主細胞,約60個の第二細胞) から構成されており,交尾後応答の主要な作用を担うAcp70A (別名 sex peptide; SP) は主細胞で合成される.附属腺における dve 遺伝子の発現は蛹期から開始するが,成虫期には第二細胞のみで発現が維持され,主細胞での発現は蛹期後期から抑制される.成虫期主細胞においては,Dve タンパク質が恒常的に分解されており,小胞体ストレスや過剰栄養を感知することで分解阻害 (脱抑制) が生じ,安定化した Dve がSP 発現を低下させることで妊性低下を誘導する.成虫期においても Dve 発現が維持される第二細胞は,生育時の栄養環境に応答して細胞の数や大きさを変化させることで適切な妊性獲得に貢献しており,栄養シグナル依存的なDve 発現レベルによる制御を受けていることを明らかにした. ステロイドホルモン (エクジソン) シグナルは栄養状態や妊性と密接に関連しており,附属腺におけるエクジソン受容体の発現も栄養シグナルに依存し,Dve活性によって維持されることが明らかとなった.Dve 発現は,臨界期以降は栄養シグナル非依存的に維持されるため,臨界期の dve強制発現は第二細胞の数を大幅に増加させた.つまり,臨界期の栄養素シグナル依存性Dve発現のレベルが第二細胞の数を決定し,エクジソンシグナル伝達が栄養シグナル依存性の第二細胞の生存と成熟を通じてオスの妊性を最適な状態に微調整していることが明らかとなった.
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