研究実績の概要 |
2023年度は、以下の研究実績を得た。 霊長類は優れた視覚をもつが、嗅覚は他の哺乳類に比べて退化している。また、イルカは聴覚(反響定位)をもちいて獲物を探すことができるが、味覚・嗅覚などの化学感覚は退化している。このように、進化の過程で異なる感覚間でトレード・オフが起きることが知られている。では、嗅覚・味覚・フェロモンという化学感覚同士では、このようなトレード・オフは起きるのだろうか?このことを調べるため、齧歯類のヤマアラシ亜目を用いて解析を行った。ヤマアラシ亜目は生態的・形態的に多様であることに加え、嗅覚・味覚・フェロモンの受容体遺伝子数が多く、本解析に最適である。全ゲノム配列が利用可能な17種のヤマアラシ亜目に対し、嗅覚・味覚・フェロモンの受容体であるOR, T2R, V1R, V2Rの同定を行った。そして、17種間でオーソログ遺伝子群を同定し、ヤマアラシ亜目の進化過程における遺伝子の増減数を推定した。その結果、上記4種の受容体遺伝子は、増減が同調していることが明らかになった。すなわち、化学感覚間においては、感覚のトレード・オフが起きるのではなく、同調して進化している。また、遺伝子の増減の速度は、V1R・V2R遺伝子が最も速く、次いでOR遺伝子、最も遅いのがT2R遺伝子であった。この結果は、種特異的なフェロモン、生育環境に依存する匂い物質、そして生物間で共通した毒物(苦味物質)という三者のリガンドの違いを反映していると考えられる。以上の成果は、Molecular Biology and Evolution誌に掲載された。
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