研究課題/領域番号 |
18K06360
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
宅野 将平 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教(特定有期雇用) (20547294)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エピゲノム進化 |
研究実績の概要 |
生物における遺伝子発現情報は、ゲノムと、ゲノムを化学的に修飾し発現を制御するエピジェネティクス機構パターンであるエピゲノムによって、精緻に制御されている。本研究では、ゲノムーエピゲノムの共進化のメカニズムを包括的に明らかにすることを目的としている。 DNAメチル化は、塩基のシトシンに付与され、遺伝子やトランスポゾンの発現を抑制する。植物のDNAメチル化は、CG、CHG、CHHサイトのシトシンに、独立なパスウェイで維持される(HはG以外の塩基を示す)。植物のトランスポゾンは、すべてのサイトでシトシンがメチル化されており、そのうちCHGメチル化が発現抑制のキーとなる。一方、シロイヌナズナやBrachypodium distachyonの遺伝子領域ではCGサイトのみメチル化され、遺伝子発現は抑制されていない。しかし、私の先行研究で、遺伝子のCHGメチル化がトランスポゾンのように高い植物種(トウモロコシ、ダイズ、マツなど)を発見している。そこで、平成30年度は、これらの種でCHGメチル化が遺伝子発現と遺伝子進化に与える影響を明らかにした。 遺伝子のCHGメチル化の増加は、ゲノムサイズの大きい種で見られ、トランスポゾンの増加に対応するためDNAメチル化レベルが上昇した副産物と考えられる。遺伝子のCHGメチル化レベルは、大部分の遺伝子で一定の閾値以下に抑えられており、これらの遺伝子は正常に発現していた。一方、トランスポゾンの90%以上が、この閾値以上のCHGメチル化レベルを示し、発現が抑制されていた。さらに、この閾値以上のメチル化レベルを示す遺伝子は、偽遺伝子化している傾向にあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
概要で述べたように、平成30年度は、DNAメチル化、遺伝子発現、遺伝子配列の進化的インタラクションを検出した。特に、新しいDNAメチル化と遺伝子進化様式の発見は、本研究の目的である、ゲノムーエピゲノムの共進化のメカニズムの解明において、重要な結果の一つ目となる。この結果は、第90回日本遺伝学会で口頭発表され、Best Papers賞を受賞した。現在、この研究結果について投稿論文を準備中である。また、平成30年度は、今後の研究のキーとなる、次世代シークエンサーによるヌクレオソームポジション、ヒストン修飾、ヒストンバリアントの同定の予備実験を、公開されているデータを用いて終わらせている。つまり、平成30年度は、予定通りの進捗に加えて、平成31年度(令和元年)の研究計画の準備にまで踏み込めたため、計画は非常に順調である。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、ゲノムーエピゲノム共進化メカニズムの解明のため、新たなエピゲノムを解析する。具体的には、シロイヌナズナのヌクレオソームポジション、ヒストン修飾、ヒストンバリアントのエピゲノム状態を、公開データによって明らかにし、これらの状態と塩基配列の進化の関係を明らかにする。エピゲノムの予備調査はほぼ終了しているため、最終的なエピゲノムデータを集約する。これに加えて、シロイヌナズナ自然集団におけるDNA多型を解析する。前年度のDNAメチル化と合わせて、ゲノムーエピゲノム間のインタラクションを明らかにする。平成32年度は、シロイヌナズナの研究の一般性を問うため、イネやトウモロコシなど他の植物種のエピゲノムを解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議に出席予定で予算を計上していたが、招待講演に切り替わったことで、旅費等が学会から支払われたため、余剰資金が生じた。余剰資金は、コンピュータ関係の物品購入に使用する予定である。
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