研究課題/領域番号 |
18K06361
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
寺井 洋平 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教 (30432016)
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研究分担者 |
宅野 将平 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教 (20547294)
藤村 衡至 新潟大学, 自然科学系, 助教 (90722140)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 適応 / 種分化 / シクリッド / スラウェシマカク / 視覚関連遺伝子 / 解毒関連遺伝子 |
研究実績の概要 |
本研究では環境への適応を遺伝子から明らかにし、繁殖に関わる形質の適応と、他の形質の適応がどちらも関わる複合的な種分化の機構を解明することを目的としている。本研究で扱う生物はシクリッドとマカクであり、これらの生物で適応と種分化に関わる遺伝子を特定し、その機能解析を行う。そして実際にどのように適応に関わるかを明らかにし、交雑個体の適応度もしくは繁殖成功率の低下を予測する。そして繁殖に関わる形質の適応と、他形質の適応のどちらも関わる複合的な、適応の副産物としての種分化の分子機構を明らかにする。 これまでの研究でヴィクトリア湖のシクリッドは、主にA2レチナールを視物質の発色団として使い、他の湖のシクリッドはA1レチナールを主に使っていることを示していた。これは発色団をA1からA2レチナールに変えることで視物質が長波長にシフトし、透明度の低いヴィクトリア湖の水中の光環境に適応しているためと考えられる。そこで令和元年度に、発色団をA1からA2レチナールに変える酵素の遺伝子について解析を行った。具体的にはヴィクトリア湖シクリッドの進化の過程でこの遺伝子のどこの部位に入った変異が選択圧を受けて進化して来たかを解析している。 スラウェシマカクについては、Macaca mauraのサンプルをインドネシアの研究者と共同で収集した。それらサンプルとこれまでに収集していた3種の集団の個体と合わせて集団エキソーム解析を行った。この解析から特に注目したのが解毒関連遺伝子である。この遺伝子の配列はスラウェシ島南部と北部の種間で異なっており、アミノ酸配列も異なる。これら配列からタンパク質を産生して機能解析を行ったところ、同じ酵素活性を持っていた。これは配列からの機能予測と一致しており、また配列からこれらの酵素は細胞内の局在が異なり、そのため役割が異なることが予測された。これらの結果は現在論文にまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シクリッドについては、発色団の使い分けに関する酵素や、婚姻色に関係する遺伝子の機能解析を新たに始め、これまでの集団ゲノム解析から明らかになった候補遺伝子の機能解析に研究を発展させつつある。特に共同研究者によりシクリッドでのCRISPR/Cas9実験系が行えるようになったことが機能解析への進展につながった。 スラウェシマカクについては、これまでの種間で分化した遺伝子に着目していたが、新たに種特異的な偽遺伝子化についての研究を始めた。種はある環境に適応すると、使われなくなる遺伝子が偽遺伝子化することが予想される。実際にスラウェシマカクでは種で共有するよりも種特異的な偽遺伝子化が多く生じていることが明らかになって来た。特に感覚受容体で多くの偽遺伝子化が見られ、それは種特異的な適応の副産物として生じて来ていると考えられる。今後、これらの解析を進めることにより、それぞれの種の適応と生殖的隔離の機構を明らかにできると考えている。 以上のことから、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
シクリッドについては、研究代表者と研究分担者がゲノム編集の技術により、集団ゲノム解析で明らかになった婚姻色形成に関わる遺伝子の機能解析をさらに進める。この技術により、機能を解析できなかった種間で分化している遺伝子の繁殖での役割を明らかにする予定である。また発色団の切り替えに関する酵素の解析も進め、光環境への適応での役割を考察する。 スラウェシマカクに関しては、集団ゲノム解析でターゲットとなった遺伝子の機能解析をさらに多くの遺伝子を加えて進める。また偽遺伝子の解析も進め、種特異的な適応と種分化を考察し論文にまとめる。また、5種の集団エキソーム解析をさらに進め、種の分化に関わる遺伝子をさらに多く明らかにし、それら遺伝子の機能解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は解析が多くなったため、実験用の費用が少なく済んだ。次年度は、変異導入個体の解析のために多くの実験用消耗品を用いるため、次年度に使用できる額を残すように予算を考慮した。
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