研究課題/領域番号 |
18K06363
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
吉田 真明 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (50555498)
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研究分担者 |
スティアマルガ デフィン 和歌山工業高等専門学校, 生物応用化学科, 准教授 (50625259)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオミネラリゼーション / 次世代シーケンス / プロテオーム / 分子進化 / 軟体動物 |
研究実績の概要 |
これまでの野外採集活動によって、カイダコ類のうち、タコブネおよびアオイガイの2種が、7月に日本海周辺域で特徴的に漁獲されることが明らかとなった。サンプルはアオイガイとタコブネの雌を使用し、第1腕と第2腕、外套膜からRNAを取り出してRNAシーケンスを行った。シーケンス後の配列断片から転写物の再構築を行い、アミノ酸配列への翻訳・コード領域の選抜をした。 まず、貝殻の分泌器官だと考えられている第1腕に着目し、マッピングの結果と相同性検索の結果を合わせることで、第1腕特異的な遺伝子を推定した。カイダコ2種で相同かつ、第1腕特異的な遺伝子として218種が見出されたが、ここに貝殻形成に関与する遺伝子は2~3の例外を除いて見出されることはなかった。後に述べる方法で推定したカイダコの貝殻遺伝子の発現量を調べた結果、第1腕だけでなくその他の部位に存在することが明らかになった。 次に方針を転換し、すでに知られている軟体動物、特にマガキの貝殻遺伝子を参照配列としてカイダコの推定タンパク質コード遺伝子と相同性検索を行うことで、カイダコ類2種の貝殻マトリックスタンパク群を同定した。調べた12種の遺伝子ファミリーのうち10種がカイダコの腕に発現していた。このことから、カイダコの貝殻遺伝子はこれまでに知られている他の軟体動物の貝殻形成遺伝子と概ね共通であることが示唆された。タンパク質の機能推定によってアオイガイとタコブネから殻形成遺伝子であるtyrosinaseが多く発見されたため、カリフォルニア・ツースポットタコ(Octopus bimaculoides)のtyrosinaseと系統解析を行ったところ、カイダコのtyrosinaseはカリフォルニア・ツースポットタコから独立した系統を示さず、カイダコでの顕著な遺伝子増幅は見出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書記載の初年度目的は,次世代シーケンス解析を行い貝殻マトリックスタンパクの生命情報解析による新奇同定、およびLCMS質量分析計によりプロテオーム解析である。生命情報解析については、カイダコ2種からのトランスクリプトーム解析の実験部分、基礎的な遺伝子発現解析部分を完了しただけでなく、2年度目以降に予定していた他種との比較を行う系統解析部分まで進行している。プロテオーム解析はLCMS解析の前処理であるタンパク質抽出を完了しており、次年度の前半でプロテオームの実験・情報解析まで完了する予定で進んでいる。これらのことから、課題全体としてはおおよそ計画通りに進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の計画としては、プロテオーム解析を速やかに完了し、貝殻中に存在する貝殻構成遺伝子を同定を完了し、この結果を元に原著論文を作成する。 初年度に見出された貝殻中に存在する推定貝殻遺伝子の中から、分子進化解析を先行して進めているが、上記の解析からターゲットを絞り込み、当初計画にあった分子進化解析まで着手する。 本課題を基盤課題として、新学術研究領域・先進ゲノム支援によるサポートを得ることができ、アオイガイの新規ゲノム解読を行っている。平成31年度前半にはドラフトゲノム解析が完了する予定である。これを用いて異所的に殻を誘導するために必要であったであろうエンハンサーの獲得などのゲノム上の変化や、雌だけが殻を分泌する性特異的なエピゲノム制御など、ゲノム配列解読とエピゲノム解析を組み合わせた進化的新奇性の研究に展開できるよう、基礎的なゲノム情報解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者のうち、分担者のセティアマルガにおいて、計上していた消耗品費のうち次世代シーケンサー運転用試薬 (イルミナmiseq)および、マイクロピペットに充当していた計21万に相当する額が次年度使用額として未執行となった。 その理由として、実験プロトコルを対象生物に合わせて調整するため、現在予備実験の段階であり、予定していた次世代シーケンサーの運転がまだ実行できていない。また、マイクロピペットは実験補助者が確保できず、既存の施設でまかなえたことから、H30は本課題の助成金で購入する必要がなかった。 翌年度分として請求分は、タンパク質の実験をプロテオーム解析まで持っていく予定であるため、本格的な実験を行うために試薬として、消耗品費、および質量分析外注費用として計上している。また、実験補助者である学生の謝金としても計上してある。これに加えて、昨年度からの繰越金額21万相当の使途計画として、昨年度実行できなかった次世代シーケンサー運転用試薬に当てる。また、実験補助者である学生の研究成果発表の旅費として使用予定である。
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