本研究では動物における適応と種分化の進化を明らかにするため、種によって異なる栄養獲得戦略を取るヒドラ属の近縁種間の比較ゲノム解析を行った。ヒドラ属には藻類共生性のグリーンヒドラと非共生性で肉食かつ大型のブラウンヒドラが存在する。グリーンヒドラの細胞内には共生藻としてクロレラが存在し、栄養面で相利共生の関係を築いている。本研究ではグリーンヒドラH. viridissima A99のゲノムを解析し、ブラウンヒドラH. magnipappilataや他の刺胞動物との比較ゲノム解析を行なった。 今年度までに、グリーンヒドラのゲノムでは自然免疫系遺伝子や抗生物質などの二次代謝産物の合成酵素など生体防御に関与する遺伝子が特異的に多く見られ、さらにドメイン構造が複雑化していることを明らかにした。今年度は特に、ホストのゲノムに存在する二次代謝産物合成酵素遺伝子に着目した。この遺伝子は系統解析から細菌からの水平伝播によって獲得されたものだと考えられる。また、これら遺伝子はヒドラ体内で実際に発現が見られ、in situ hybridization の結果、特に内胚葉に強いシグナルが見られたことから、共生藻もしくは腸内細菌の維持などに関与している可能性が考えられる。 また、グリーンヒドラのゲノムサイズは約300Mbであるのに対し、ブラウンヒドラゲノムは約1Gbと大きな差があり、ブラウンヒドラではRNAトランスポゾンの増幅によるゲノムサイズの増大が起こっている。本年度は特にブラウンヒドラのリピート配列の分布を正確に把握するため、Nanopore MiNIONを用いたブラウンヒドラゲノムのロングリードシーケンスを行った。これは、ゲノム中のトランスポゾンの挿入箇所だけでなく、メチル化状態などの研究などにも用いる基盤となる。
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