研究実績の概要 |
本研究では、サギソウの複雑な唇弁形態を、(1)遺伝子・細胞レベルでの形成メカニズムの観点、(2)ポリネーターとの共進化の観点、から明らかにすることを目的にしている。(1)については、葉とつぼみの比較トランスクリプトームを次世代シーケンサーを用いて行い、HrAP2, HrDEF, HrGLO, HrAG, HrAGL6などのクローニングと塩基配列決定を行なった。これらの遺伝子について、各花器官のRT-PCRによる発現解析を進め、唇弁特異的なMADS box遺伝子コンプレックスがあることを示唆した。また、異なる発達段階の唇弁の鋸歯部分の細胞形態を、カルコフロー染色と共焦点レーザー顕微鏡によって可視化し、ImageJによる画像解析を行うことで、鋸歯形成の初期はローカルな細胞分裂制御によって鋸歯が作られ、後半は細胞伸長によって鋸歯が伸びていくことが示唆された。一方、遺伝子組み換えのための培養系確立については、葉や花器官等の組織培養をMS培地等で試したが、組織が褐片化してうまくいかなかった。唯一、雌ずいの組織片の一部から細胞塊の分裂が見られたが、長続きせずに褐片化、枯死してしまった。(2)では、屋外栽培のサギソウのタイムラプス撮影および動画撮影を行い、スズメガの一種(セスジスズメと思われる)が、夕方暗くなった時に訪花し、ホバリングしながら吸蜜している様子を初めて撮影できた。この事から、サギソウ唇弁の複雑な花弁は、少なくとも訪花昆虫の認識に貢献していると考えられる。
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