モンゼンイスアブラムシのゴール修復行動の分子基盤進化に関して、本年度は論文化のために必要な残りのデータを取得した。具体的には、モンゼンイスアブラムシの近縁種であるイスノフシアブラムシ、イスノアキアブラムシ、イスノオオムネアブラムシにおける兵隊特異的フェノール酸化酵素遺伝子のcDNAクローニングおよびシーケンス解析を行い、RNAseq解析で得られた塩基配列と一致することを確認した。現在、これまでの成果を論文としてまとめているところであり、近く投稿予定である。本論文においては、モンゼンイスアブラムシのゴール修復に必要な物質(チロシンやフェノール酵素などのタンパク質成分)の蓄積に特化した巨大顆粒細胞が脂肪体細胞由来であること、社会性アブラムシにおけるゴール修復の進化にはフェノール酸化酵素の遺伝子重複や発現組織の変化という分子進化的イベントが重要な役割を果たしたことなどについて報告する予定である。また本成果は、第26回国際昆虫学会(フィンランド、2020年開催予定であったが新型コロナウイルス蔓延により2021年に延期)において発表予定であったが、学会が2022年夏に再延期されたため、発表は実現しなかった。 本年度はまた、モンゼンイスアブラムシと同じゴール形成性の社会性アブラムシであるハクウンボクハナフシアブラムシにおいて、兵隊の清掃行動を引き起こす死体認識フェロモンが、死後の個体から生じるリノール酸であることを発見し、その成果をZoological Letters誌に発表した。リノール酸を含む不飽和脂肪酸はハチ、アリ類においても死体認識シグナルとして用いられていることから、社会性昆虫全般に見られる共通の仕組みであることが明らかになった。
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