研究課題/領域番号 |
18K06375
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
西井 かなえ 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (50743770)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 茎頂分裂組織 / 葉発生 / イワタバコ科 / ゲノムワイド関連解析 / QTL解析 / 次世代シーケンサー / ロングリードシーケンス / ゲノムアッセンブリ |
研究実績の概要 |
イワタバコ科ストレプトカルプス属を用い、一葉種とロゼット種の交配集団を用いて葉発生に関与する遺伝子単離すべく、研究を進めている。本年度、モデル種として、ロゼット種Streptocarpus rexiiを用い、ゲノム資源の整備を進めた。これまでに、HiseqシステムによるS. rexiiショートリード次世代シーケンスデータを得ているが、本年度はそれに加えてPacBio Sequelシステムによるロングリード次世代シーケンスデータを得ることが出来た。PacBioシステムでは、高純度DNAを必要とするため、これまで用いていたDNA抽出法では十分な純度のDNAが得られなかった。そのため、DNA抽出法の検討を行った。その結果、核抽出法を組み合わせることで高純度DNAを得、ロングリードシーケンスを行うことができた。平均リード長が>25000bp、リード量約12Gb程のデータを得た。現在、得られた結果を解析中である。 葉発生関連遺伝子をゲノムワイド関連解析により探索するため、一葉種とロゼット種の近同質遺伝子系統を200植物体育成した。各植物体について、表現型解析を行い、DNA抽出用のサンプル採取を行った。表現型は、一葉型、ロゼット型、そして中間的な表現型を示した。一葉型、ロゼット型を示す植物体を各50個体以上得ることが出来た。 理化学研究所との共同研究として、重イオンビーム照射による変異体作成を試みた。照射用種子作成のため、約30植物体を育成し、十分な量の種子を収穫できた。本年度、理化学研究所にて変異体作成用のテスト照射を行った。既知のデータを参照とし、9段階の異なる照射を行った。テスト照射を行った種子を、現在育成しており、異なる照射区ごとに表現型を確認中である。これは、イワタバコ科で初めての重イオンビーム照射実験となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロングリードシーケンスデータ取得まで、予想よりも時間がかかった。初めにショートリードシーケンス用に用いた方法でDNA抽出を行ったところ、質・量ともにロングリードシーケンスで求められる純度・量のDNAが得られなかった。そのため、DNA抽出法の検討を行う必要があった。ストレプトカルプスは多糖類が多く、いくつかのDNA抽出キットを試し、さらに手順を改変したが、そのままでは高純度のDNAが得られず、前処理として核抽出法を追加することで高純度DNAを得、シーケンスデータを得ることができた。 ゲノムワイド関連解析では、実験材料として十分な数の近同質遺伝子系統集団を、得ることが出来た。一葉・ロゼットの表現型共に十分な数の個体を得たと考える。ゲノムワイド関連解析は、ショートリード法を用いて行うが、現在シーケンスライブラリ作成中である。 変異体作成は、理化学研究所との共同研究として行った。ストレプトカルプス種子と類似したサイズの既知の種子照射データを参照として、9段階の異なる照射を行うことが出来た。現在、表現型・致死率を解析中であるが、おそらく変異体スクリーニングに用いるのに適切な照射量を処理された区が含まれていると考えられる。今後、その植物体を用いてスクリーニング用種子を得る予定である。 全体として、ロングリードゲノムデータ取得がやや遅れたものの、ゲノムワイド関連解析・変異体作成のための植物材料の育成・手配は滞りなく進行し、実験に取り掛かることが出来た。また、ゲノムワイド関連解析用の次世代シーケンスライブラリ作成も順調に進んでいる。そのため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ストレプトカルプスのゲノムシーケンスを得るため、本年度ロングリードシーケンスデータを得た。得られたデータと、これまでに得たショートリードシーケンスを組み合わせ、ハイブリッドアッセンブリ法を用いてゲノムアッセンブリを行う予定である。ゲノムサイズの約12倍量のロングリードシーケンスデータが現在得られており、これは単体でのゲノムアッセンブリ用には不十分である。しかし、ショートリードデータ、遺伝子マップデータ、ゲノムワイド関連解析データと組み合わせることで、遺伝子ファインマッピングに必要な情報が得られる可能性がある。そのため、まず得られているデータを用いて解析を進める。解析の結果、目的とするゲノム領域のデータが得られなかった場合、ロングリードシーケンスを追加して行う。 ゲノムワイド関連解析は、現在ショートリードシーケンス用ライブラリ作成を進めており、順調であれば次年度にデータが得られる。本来のゲノムワイド関連解析は、個々のゲノムデータを表現型ごとにまとめて解析をするが、本研究の目的は葉発生関与遺伝子単離であるので、プール法を用いることとした。プール法では、表現型の異なる集団ごとにシーケンスを行い、集団間で一塩基多型の遺伝子型頻度を比較することにより、表現型に関与する一塩基多型をゲノムワイド関連解析による特定することを試みる。5-10個体程度の葉発生に関して同じ表現型を示す個体のDNAをプールしてシーケンスを行い、一葉集団とロゼット集団に分け、集団解析用ソフトウェアを用いて集団間の遺伝子型頻度を比較することで、遺伝子を特定する予定である。 変異体作成に関しては、得られたデータから適切な照射区を選定し、その照射区より約300植物体を育成し、スクリーニングのための種子を収穫する予定である。得られた種子を用いて、葉発生変異を示す個体のスクリーニングを今後行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来は、3セルのPacBioロングリードシーケンスを本年度行う予定であった。しかし、ロングリードシーケンス用のDNA調整が、予定していたよりも困難であったため、本年度は試験的に1セルのみシーケンスを行った。そのため、次年度使用額が生じた。次年度以降に追加でロングリードシーケンスを行う予定である。
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