植物分裂組織は植物の幹細胞制御器官として器官発生及び形態形成の要である。本研究は、イワタバコ科ストレプトカーパスで進化した茎頂分裂組織ではなく葉分裂組織を介する葉発生に注目し、その背景となる分裂組織多様化の分子機構を、遺伝学的手法を用いて探ろうとした。材料として、葉発生するロゼット種Streptocarpus rexiiと、葉発生しない一葉種Streptocarpus grandisとその交雑集団を用いた。また、S. rexiiをモデル種として重イオンビーム照射による変異体集団を作成した。 非モデル植物ストレプトカーパスの遺伝学を行うため、次世代シーケンス技術を用い遺伝学的基盤を整えた。レファレンスゲノムを得るために、高分子・高純度DNA抽出法を開発しロングリードシーケンスを行った。結果として、S. rexiiゲノムをONT法で獲得し、S. grandisゲノムをより高精度なPacBio HiFi法により獲得した。S. rexiiゲノムは、トランスクリプトームアノテーションと、全ゲノム重複解析を行い論文とした。本年度行ったS. grandisゲノムアッセンブリの結果、L50 = 10、N50 = 49 Mbpという非常に連続性の高いコンティグが得られた。S. rexiiとS. grandisの準同質遺伝子系統集団を利用し、葉発生形質を司る遺伝領域を単離するため、96個体のゲノムデータを得た。これまで250万の形質に関連した一塩基多型が検出されたが、今後最新のレファレンスゲノムと合わせて再解析し遺伝型を絞り込めると期待している。ストレプトカーパスの重イオンビーム照射変異体作成のため、S. rexiiの適切な照射強度を突き止め、それを用いた変異体集団を作成した。本研究により、ストレプトカーパスを用いた本格的な遺伝学研究を行うことが可能であることが示された。
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