研究課題/領域番号 |
18K06376
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小藤 累美子 金沢大学, 生命理工学系, 助教 (40324066)
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研究分担者 |
山田 敏弘 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70392537)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 系統 / 陸上植物 / コケ植物 / 造精器 / 発生過程 / ツノゴケ / コマチゴケ |
研究実績の概要 |
未だ解き明かされていない陸上植物基部、コケ植物セン類、タイ類、ツノゴケ類、及び維管束植物の4グループの系統関係を、造卵器・造精器の発生過程に関与する遺伝子に着目して解明することが本研究の目的である。最近の大規模データを用いた分子系統解析(Wickett et al. 2014、Puttick et al. 2018)から、コケ植物のセン類とタイ類が姉妹群であることが明らかとなり、さらにツノゴケ類を加えたコケ植物3グループが単系統であるという系統樹がもっとも支持された。ただしツノゴケ類の系統的位置については、陸上植物の最基部で分岐、維管束植物の姉妹群のどちらの可能性もまだ残っており、ツノゴケ類の系統的位置が系統解明の鍵となる。本年度の成果を以下に示す。 1. ツノゴケ類(実験系統Anthoceros agrestis Oxford strain;雌雄同株): 無菌培養を行い、造卵器・造精器形成に適切な培養条件を見出すとともに、形成のタイミング、形成場所、及び発生過程を明らかにした。LSMによる3D画像の詳細な解析を行い、造卵器同様notched meristemから造精器チャンバーがつくられること、従来の見解と異なり表皮細胞が並層分裂した外側の細胞がチャンバールーフにならないことを発見した。すなわち、シダ植物と比較されることもあった最初の並層分裂による表皮側細胞の発生運命は、シダ植物と全く異なる。 2. タイ類(コマチゴケ;雌雄異株): 基部で分岐したコマチゴケの野生株の造精器をLSMで観察し、茎頂に多数の造精器が形成されている生育段階では、複数の造精器が同じ細胞あるいは隣接する細胞から次々と作られることがわかった。性別不明無菌株(連携研究者 榊原恵子博士により作出)から雄株を探索するため培養と観察を行なったが、1年間培養しても配偶子のう形成に至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コマチゴケの培養条件と雄株の確立はまだ達成できていないものの、ツノゴケ実験系統の培養条件の確立と造精器形成過程が明らかにでき、さらにシダ植物と比較して似た過程であると説明されていた従来の知見を覆す可能性の高い成果が得られた。また最近、他の共同研究によるセン類ヒメツリガネゴケの造精器茎頂と栄養茎頂のRNA-seqデータが入手でき、これを用いて造精器特異的に働く候補遺伝子を探索できることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
A. agrestis実験系統でにおける造精器発生過程の新発見について、野外で生育している他種ツノゴケでも同じかどうかを調べ、実験系統における変異や培養条件に依存する表現型でないことを確認する。確認できたら論文として発表する。コマチゴケについては培養条件の検討を行い、引き続き雄株を探索する。 候補遺伝子は、ヒメツリガネゴケ造精器茎頂と栄養茎頂のRNA-seqデータを比較し、造精器特異的あるいは造精器で強い発現を示す遺伝子を特定し、さらにツノゴケ、ゼニゴケのゲノム配列中にオーソログが存在する遺伝子を選抜する。同時に、小葉類、シダ類、外群であるシャジクモのゲノム中にもオーソログが存在する遺伝子を選抜する。 ツノゴケで発生段階特異的なRNA-seqを行い、候補遺伝子が含まれるかどうかを調べ、さらにin situ hybridizationを行い、発現している部位を特定する。さらにヒメツリガネゴケでプロモーター:レポーター導入株を作成して発現する細胞を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ツノゴケ、コマチゴケ培養株の条件検討に時間がかかったこと、ツノゴケの造精器発生過程に関して予想外の発見があったことから解析に時間をかけたことにより、これらのRNA-seq解析に取りかかることができなかったため。
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