本研究は、コケ植物に共通する造精器・造卵器の形質および発生遺伝子を探索することを目的としてしており、昨年度の知見をもとにさらに解析を進めた上で、Anthoceros agrestis Oxford系統を用いて網羅的発現解析を行った。 昨年度の知見から、生殖器官を形成しないメリステムの採取は不可能であることがわかった。また観察を進めたところ、 (1) いずれの個体でも最初の生殖器官は造精器であったが、2つ目以降は造卵器が形成される個体およびメリステムが半数程度存在していることがわかり、また (2) 水の添加を控えて培地の表面が濡れていない条件での培養により、造精器形成期間を延ばすことができたものの、半数程度の個体やメリステムでは造卵器の形成が見られたことから、初期発生段階の生殖器官を含め全てが造精器のみとなるメリステムの採取は不可能であると判断した。 そこで、造卵器のみを形成する時期の葉状体19個体から、メリステムを含む組織片(以下造卵器メリステム)と、メリステムの周辺から伸びたローブの組織片を、それぞれ800細胞程度になるように採取し、Kubo et al. (2019)のsingle cell RNA-seq法を用いて計38個のライブラリーを作成した。HiSeqXでシークエンスしてDEG解析したところ、造卵器メリステムとローブの双方で発現する遺伝子はアクチンやチューブリンを含む9570個、ローブで2倍以上の発現上昇が見られた遺伝子が1078個、造卵器メリステムで2倍以上の発現上昇が見られた遺伝子が1020個検出された。後者には、ゼニゴケで造卵器・造精器形成を制御するRKD遺伝子が含まれており、RKD遺伝子がコケ植物で共通して生殖器官の発生に関与する可能性が示された。
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