研究課題/領域番号 |
18K06377
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
福田 知子 三重大学, 教養教育院, 特任講師(教育担当) (10508633)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遺伝構造 / 島嶼個体群 / 種分化 / 染色体数 / 異数倍数性 / 遺伝的多様性 |
研究実績の概要 |
千島列島周辺には周北極地域に広域分布するシベリアイワブキの近縁種が数種分化しており、これらの種は氷期・間氷期を通じてベーリング海域周辺に生じた分布変遷、遺伝子交流など複雑な歴史を反映していると考えられる。これらの遺伝的な関係を調べるため、核遺伝子ITS領域(605bp)と葉緑体遺伝子4領域(trnLF, rbcL, trnC-rpoB, matK計2,366bp)を用いた遺伝解析を行った。ITS配列・葉緑体ハプロタイプのいずれにおいても千島列島を中心に複数の種が1つのタイプを共有する例がみられ、種の境界と遺伝的境界は一致していなかった。ITS領域に基づくML系統樹では、全体は大陸のシベリアイワブキを中心とするクレード(G1)と千島列島~アリューシャン列島のシベリアイワブキ、エゾクロクモソウ、M. ohwii, M. manchuriensis (G2)に分かれ、G2は①日本列島を中心とするエゾクロクモソウ、②利尻~カムチャツカの高山グループ、③千島~アリューシャンの低地グループ、④M. manchuriensisに分かれた。一方、葉緑体ハプロタイプの集団解析(SAMOVA)によるとK=6の時、②~④は1つのクラスターを形成し、ITSの3クレードとの矛盾がみられた。日本から千島列島にかけては、染色体数が2n=50の異数倍数性を示すものが複数みられたため、利尻(2n=50)、大雪(2n=80)のクローニングを行い、これらの遺伝構成を調べたところ、いずれもG1とG2の配列を併せ持つことがわかった。以上のことから、千島列島周辺~アリューシャンのシベリアイワブキと近縁種は、大陸の集団とは異なる独自の遺伝構成を持ち、大陸集団と二次的交雑を行っていることが示唆された。このことは、大陸周縁部の島嶼集団がシベリアイワブキや近縁種の遺伝的多様性の増大に大きく寄与していることを示すと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年は3年目であり、「実績概要」に述べた内容で二回目の投稿準備中である。当初の計画には、千島北部の調査を含めていたが、踏査がかなわず、サンプル採集を依頼し、遺伝子解析と4個体の染色体調査のみを行った。千島北部ではシベリアイワブキとM.ohwiiが異なる標高に分布するという報告がある他、染色体調査ではシベリアイワブキの中に2n=24, 50が見つかったことから、今後、種-分布標高-遺伝構成-染色体数の対応という観点から、千島列島北部の集団の遺伝解析・染色体数調査が望まれる。 核遺伝子についてはシングルコピー遺伝子の増幅を複数試したが、個体により結果が得られにくい他、長いindelが見られるなどの理由で解析が困難であったため、ITS領域の解析を優先させた。 一方、計画になかった利尻・大雪の数個体のクローニングの結果が追加できたことから、千島列島周辺の集団の少なくとも一部は大陸との二次的交雑を経ているという推定を得ることができた。 以上のように計画を一部変更した部分はあるものの、現時点でひととおりの成果が得られたものと判断し、早期投稿を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の結果、シベリア~北米に広域分布するシベリアイワブキが、日本~カムチャツカ~アリューシャンの島嶼地帯で独自の遺伝構成を持ち、シベリアイワブキや近縁種全体の遺伝的多様性を促進していることが示唆された。シベリアイワブキは、花序・葉の形質や花弁の色などにおいて変異が大きく、ベーリング海域やその周辺地域からは、チシマイワブキ(var. reniformis)、var. pacifica, var. porsildianaなど多くの変種が報告されている。そこで今後はこれらのシベリアイワブキの多様性がどのような遺伝的構成や倍数体の違いによってもたらされたのかを明らかにすることを目標としたい。以上の目的のためにも、千島北部の調査が必要であり、早期に実施できるように計画している。ただし、今年度も海外への渡航が不可能となった場合、将来行う予定にしていた国内のエゾクロクモソウの採集・解析を前倒しにして行うことも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度の使用計画として千島列島北部におけるシベリアイワブキとMicranthes ohwiiの現地調査と、そこから得られるサンプルの解析を含めていたが、海外渡航禁止のため、訪問・その後の解析が実現しなかった。今後もこの計画を優先的に行う予定であるが、今年度も海外渡航禁止となる可能性もあるため、国内のエゾクロクモソウ(M.fusca)の採集・解析に転用することも考えている。
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