• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実施状況報告書

植物区系の境界地域における集団形成過程の解明

研究課題

研究課題/領域番号 18K06377
研究機関三重大学

研究代表者

福田 知子  三重大学, 教養教育院, 特任講師(教育担当) (10508633)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2023-03-31
キーワード生物地理 / 系統解析 / ハプロタイプ集団解析
研究実績の概要

東アジア植物相・周北極植物相の境界とされる千島列島南部における植物集団の形成過程を調べるため、研究対象のチシマイワブキ属植物(シベリアイワブキ、クロクモソウ、Micranthes ohwii等)について沿海州-北海道-千島-カムチャツカをカバーする計40箇所338サンプルについて解析を行った。葉緑体DNAの4領域(trnC-rpoB, matK他)と、核リボゾームITS領域に基づき系統樹を構築し、集団解析を行った。
葉緑体と核ITS領域の最尤法系統樹は一致せず、これらの集団が複雑な歴史を経ていると考えられた。一方、大陸のシベリアイワブキ集団はいずれの系統樹でも外群となり、千島列島周辺に分布するシベリアイワブキ、クロクモソウ、M. ohwiiを含む島嶼集団は、大陸とは異なる島嶼クレードを形成していた。島嶼集団のうちITSに基づく系統解析では、千島~カムチャツカの集団は種の範囲を越えて、高山グループ(北海道とカムチャツカの高山)と低地グループ(千島南部~北部とアリューシャン列島)に明瞭に分けられた。一方、葉緑体ハプロタイプのSAMOVA解析の結果、択捉南部以南のクロクモソウを除く、沿海州~千島列島の大部分が1クラスターに含まれ、種子散布が列島沿いの広範囲にわたる可能性が示された。
利尻、大雪のチシマイワブキが倍数性を持つ(2n=50, 2n=80)ことから、これらの遺伝子構成を知るためITS領域のクローニングを行った。その結果、利尻の2個体は少なくとも大陸(サハリン)と千島高地集団、大雪の2個体はそれに加えて千島低地集団の遺伝子を持つと推定された。以上のことから、北海道・千島列島などの島嶼集団は大陸と、島嶼集団間の遺伝子交流を経て、大陸とは異なった遺伝的集団を形成してきたと考えられる。
染色体数調査では、千島北部で新たな染色体数(2n=24, 50)を明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

現在は以上の結果をまとめて投稿中である。計画では千島北部のパラムシル島でシベリアイワブキとM. ohwiiをサンプリングして標高による分布変化や染色体数、交雑の有無、遺伝的構成などの調査を含めていたが、現在、渡航自体が難しい状況であるため、実現の見込みが立っていない。なお、期間中、シベリアイワブキ、M. ohwii、チシマクロクモソウの袋がけ実験・交配実験も行ったが、現地機関で栽培中に枯死するなど、期待した成果は得られなかった。今後、これらの交配実験についても機会を見て引き続き実験を行いたい。

今後の研究の推進方策

これまでクロクモソウの分布範囲については諸説があった(Hulten, 1928; Wakabayashi, 2001; Barkalov, 2009; Takahashi, 2015)が、これまでの結果からクロクモソウが千島列島の択捉島南部を北限として、明瞭なまとまりを示すことが明らかになった。そこで、今後はクロクモソウ種内の3変種を意識して(具体的には、変種のクロクモソウ・エゾクロクモソウの境界に相当する宮城・山形と、長野~近畿間の岐阜県他)で追加サンプリングを行い、クロクモソウ種内の系統解析・集団遺伝解析などによって、シベリアイワブキとの共通祖先から分化したクロクモソウが日本列島を中心にどのように分布を広げたかについて明らかにしたい。現在までに37地点からの343サンプルを採集済みであり、系統解析、葉緑体ハプロタイプの集団解析を進めているところである。クロクモソウについては、キノコバエ媒という特殊な受粉形態であることが報告されており(Mochizuki & Kawakita 2018), 訪花昆虫との関係にも注目する。
国内のチシマイワブキについては、北海道のものは解析済みであるが、本州高山のシベリアイワブキであるタテヤマイワブキについてはまだ解析していない。昨年、タテヤマイワブキを入手して染色体数の調査を行った(結果を投稿中)ため、今後は北海道のチシマイワブキ・他のシベリアイワブキ集団との遺伝的関係も明らかにすることを計画中である。

次年度使用額が生じた理由

本計画では、千島列島北部のパラムシル島での集団サンプリングの他、ロシア極東各地においてシベリアイワブキ、Micranthes ohwiiの採集を予定していたが、コロナ流行以降ロシアへの渡航自体が難しくなり、今後の予定がたたない状況である。そこで、これらの金額は国内のクロクモソウの採集に当てる他、クロクモソウの集団解析にかかる薬品や実験委託料として支出することを考えている。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)

  • [国際共同研究] Kurilsky Nature Reserve/Botanical Garden, Vladivostok/Pacific Institute of Geography(ロシア連邦)

    • 国名
      ロシア連邦
    • 外国機関名
      Kurilsky Nature Reserve/Botanical Garden, Vladivostok/Pacific Institute of Geography
    • 他の機関数
      2
  • [雑誌論文] Morphology, chromosome numbers and growth condition of Micranthes fusca (Maxim.) S. Akiyama et H. Ohba (Saxifragaceae)2021

    • 著者名/発表者名
      Fukuda T.
    • 雑誌名

      Bulletin of the college of liberal arts and sciences, Mie University

      巻: 6 ページ: 13-23

  • [学会発表] タテヤマイワブキ(ユキノシタ科)の染色体数と系統的位置の推定.2022

    • 著者名/発表者名
      福田知子, 足立敏文, 中村剛
    • 学会等名
      日本植物分類学会第21回大会
  • [学会発表] クロクモソウ(ユキノシタ科チシマイワブキ属)の分子系統地理.2022

    • 著者名/発表者名
      福田知子, Linnik E.
    • 学会等名
      日本生態学会大会日本生態学会第69回大会
  • [学会発表] エゾクロクモソウ(ユキノシタ科チシマイワブキ属)の系統地理解析と種内分類との対応.2021

    • 著者名/発表者名
      福田知子, Linnik E.
    • 学会等名
      日本植物学会
  • [学会発表] Phylogeny of Micranthes fusca (Saxifragaceae) and haplotype analysis.2021

    • 著者名/発表者名
      Fukuda T., Linnik E.
    • 学会等名
      The 9th East Asian Plant Diversity and Conservation -Virtual Symposium, Sungkyunkwan University, Korea.
    • 国際学会

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi