研究実績の概要 |
コバイモ類(以下、コバイモ節:Fritillaria sect. Japonica)は、ユリ科バイモ属の多年生草本で日本固有種のみから構成される。本節の植物は、3タイプの花形が認識されており、これらは分類形質としてよく用いられてきた。私たちの事前の調査により、3タイプの花形(筒形、広鐘形、傘形)はそれぞれ地理的にまとまる一方で、必ずしも系統を反映していない事が示唆された。コバイモ節の種分化には、地域間の昆虫相の違いや訪花昆虫の行動の違いが寄与したのかもしれない。そこで、本研究では、コバイモ節植物の種間と集団間の系統関係を明らかにし、得られた系統樹を基にして花形を含む形質進化の方向を明らかにする。また、訪花昆虫を調査して花形と訪花昆虫との関連性の解明を試み、花形態と系統が不一致となった生態的な要因と、その多様化した植物群の独特の分布パターンを成立させた要因について考える。 初年度は、コバイモ類の種間の系統関係を明らかにするため、日本全国から収集したコバイモ節10種68個体について、葉緑体11領域(atpB-rbcL, atpF-H, petA-psbJ, psbA-trnH, rpl16, rps16, rpoB, rpoc1, trnL-F, trnS-G, trnG)の塩基配列を解析した。その結果、初めてコバイモ節全種を用いた分子系統樹が構築され、全種の系統関係が明らかになった。また、コバイモ節に2つの系統(染色体基本数がX=11とX=12の系統)が存在し、それぞれの系統に分かれた後に3タイプの花形が分化したことが明確になった。さらに、今まで雑種の可能性が示唆されたことのない種の中に単系統とならない種が複数見つかった。
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