研究課題
和白干潟の底泥サンプルからゲノムDNAを抽出し,それを鋳型として真核生物18S rRNA遺伝子のPCR増幅を行った。PCR増幅産物の塩基配列はイルミナシーケンサーMiSeqを用いて決定し,得られた塩基配列は相同性検索に供した。その結果,真核生物のうち「SARスーパーグループ」のリード数の割合が最も高かった。ストラメノパイルでは単細胞の藻類である珪藻類が圧倒的に優占していた。珪藻類は光合成行い、一次生産者としての役割を果たしていると考えられる。アルベオラータでは繊毛虫類が優占していた。繊毛虫は当該環境で低次捕食者あるいは寄生者としての役割を果たしていると考えられる。また,リザリアではケルコゾアのみが検出された。これらの大部分は従属栄養性であり,低次捕食者としての役割を果たしていると考えられるが,例外として光合成を行うクロララクニオン藻類も検出された。また同干潟においてアサリ11個体を採取し,それらの鰓組織からゲノムDNAを抽出した。提出したDNAを鋳型として原生生物の18S rRNA遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRを行った。PCR増幅産物はクローニングおよびシークエンスに供し,さらに得られた塩基配列は相同性検索および系統解析に供した。解析の結果,全個体からPerkinsus由来の遺伝子配列が検出され,その高い感染率が確認された。また,PerkinsusについてはITS-rDNA領域における解析も行い,その結果,感染している種は全てPerkinsus olseniであることが示された。Perkinsus以外に,繊毛虫2種,キネトプラスト1種,菌類1種,略胞子虫1種に由来する遺伝子配列が検出され,系統解析の結果,その多くは寄生性の種である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画書において,2018年度は「干潟底泥中に存在する真核微生物の多様性を明らかにする」ことと「干潟底生動物に寄生する真核微生物の存在を明らかにする」ことを目標としていたが,いずれにおいても目的とするデータを得ることが出来た。干潟底泥中に存在する真核微生物に関しては,珪藻類が圧倒的に多いことは,先行研究からある程度予測できた。しかし繊毛虫類やケルコゾア類が比較的多く存在し,それらが当該環境において低次捕食者として重要な役割を果たしている可能性を示したのは本研究が初めてである。寄生性真核微生物に関しては,干潟の代表的な底生動物であるアサリから着手した。アサリから高頻度でPerkinsusが検出されることも先行研究からある程度予測できたが,それ以外に繊毛虫類,キネトプラスト類,菌類および略胞子虫類等の多様な寄生性真核微生物が存在することを示した今回の結果は,国内産アサリ減少の要因を考える際の重要な知見になり得る。
干潟底泥中に存在する真核微生物に関しては,今回は最もリード数の多かったSARに焦点を絞り,その多様性解析を行ったが,それ以外の真核生物大系統群(例えばオピストコンタやアメーボゾア等)においても同様の多様性解析を行い,干潟底泥中に存在する真核微生物の全体像を把握する。また,その中でもバイオマス的・生態学的に重要と考えられる生物種を特定し,そのFISH解析のための準備を行う。寄生性真核微生物に関しては,水産重要種であるアサリを対象として解析を行ったが,その個体数は11とN数が圧倒的に少ない状況にある。したがって,様々なタイミングで,より多くのアサリ個体を採取し,同様の寄生性真核微生物検出実験を行う。また,アサリ以外の干潟底生動物の寄生性真核微生物検出にも着手する。具体的には,和白干潟において圧倒的に大きいバイオマスを有し,当該環境で生態学的に重要な役割を果たしていると考えられる巻貝の1種ウミニナを調査対象とする予定である。
Miseqによるシークエンシングの外注をキャンペーン価格で行うことができた。次年度は予定よりも多くのシークエンシングを行う予定である。
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Journal of Antibiotics
巻: 71 ページ: 741-744
doi:10.1038/s41429-018-0053-z