研究課題/領域番号 |
18K06389
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
伊藤 道彦 北里大学, 理学部, 准教授 (90240994)
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研究分担者 |
田村 啓 北里大学, 理学部, 講師 (50458767)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 種分化 / トランスポゾン / 性決定遺伝子 / piRNA / 雑種 / ヨーロッパトノサマガエル / ツメガエル / dm-W |
研究実績の概要 |
近縁種間の雑種という観点から、性システムと種分化におけるトランスポゾンの寄与を分子的に証明することを目的として、2年目である2019年度は、以下の解析を行った。 1.性システム アフリカツメガエルの性決定遺伝子dm-W は、2倍体ツメガエル近縁2種の異種交配により異質4倍体化した祖先において、新性決定システムのために誕生した新機能獲得型の性決定遺伝子である。トランスポゾンを介し、dmrt1 遺伝子の部分重複によって誕生し、その後、性決定遺伝子として分子進化し、集団内に確立したと考えられているが、そのアミノ酸レベルでの分子機構は謎であった。本年度は、同様にトランスポゾンを介し、同じdmrt1オーソログの重複後に分子進化してきたメダカ性決定遺伝子dmyとの比較解析を行い、同じアミノ酸置換を検出した。ツメガエルおよびメダカの種分化過程で独立に起ったDM-WおよびDMY分子進化におけるこのアミノ酸置換(平行分子進化)は、分子進化的に正の選択下にあること、さらに、この置換が性決定遺伝子産物としてのタンパク質レベルの機能に貢献したことが強く示唆された [Ogita, ------, Ito. iSience 23, 100757; 2020 (Jan 24)]。 2.種分化 ヨーロッパに広く棲息するヨーロッパトノサマガエルは、ワライガエルとコガタトノサマガエルの雑種で、地域差や個体差はあるものの、多くの雑種個体では、コガタトノサマガエルのゲノムが配偶子形成過程で一方的に排除される。本研究では、種特異的な自己・非自己ゲノムDNA認識システムを想定し、このシステムを明らかにすることを目的として、本年度はワライガエルのゲノム配列の決定を行った。更に、この配列情報から、トランスポゾン検出ソフトを用い、トランスポゾン解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、2年目として、概ね順調に進展してきた。以下にその詳細を記す。 1. 性システム. ① 平行進化:アフリカツメガエルdm-Wとメダカのdmyは、dmrt1重複型の性決定遺伝子として、トランポゾンを介して独立に重複進化してきた。これら2遺伝子由来のタンパク質における平行アミノ酸置換の解析は、順調に進展し、2020年1月論文として公表の段となった [Ogita, ------, Ito. iSience 23, 100757; 2020 (Jan 24)]。②トランスポゾン由来新エクソンの誕生:アフリカルメガエルでの解析はほぼ順調に進展した(林ら、2019年12月日本分子生物学会発表)。dm-Wを保持する他種の異質4倍体あるいは8倍体のツメガエル種に関しては、現在進行中である。 2. 種分化. ① ツメガエル属における雑種:異種交配由来の異質4倍体アフリカツメガエルと非異種交配種の2倍体ネッタイツメガエルにおけるゲノム内でのトランスポゾンおよびpiRNAクラスターの共進化の解析は、順調に行われている(須田ら、2019年12月日本分子生物学会発表)。② 雑種ヨーロッパトノサマガエル:2019年度、ヨーロッパトノサマガエルの親2種(ワライガエルとコガタトノサマガエル)のうち、ワライガエルのゲノム配列の決定が完了した。現在、2019年度と2020年度の予算を用い、コガタトノサマガエルのゲノム解析も進行中である。当初の計画より、若干の遅れになったのは、良質のゲノムを単離することに時間がかかったこと、ゲノムサイズが予想より大きかったことなどが挙げられるが、概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究に関して、2019度の解析結果を受け、以下のように推進させる予定である。 1. 性システム:アフリカツメガエル性決定遺伝子dm-W: dm-Wは、異種交配後に誕生し、その後に分子進化した遺伝子であるが、その最終 exon(exon 4)はトランスポゾン由来である。このトランスポゾン領域は、トランスポゾンにとっては非コード領域由来であるが、DM-Wでは、転写因子としてのタンパク質機能に参与している。そのような分子進化機構でタンパク質機能に参与したかを解析する。 2. 種分化 ① 異質4倍体ツメガエルのトランスポゾン:異質4倍体のアフリカツメガエルおよびキタツメガエル、および2倍体のネッタイツメガエルのゲノムおよびpiRNAを比較解析する。これにより、ゲノム内のトランスポゾン制御と異種交配との連関性を明らかにする。 ② 自己・非自己DNA認識システム:現在、コガタトノサマガエルのゲノム解析を行っている。完了後、コガタトノサマガエルとワライガエルのゲノム比較、および、それぞれ2種と雑種のヨーロッパトノサマガエルのpiRNA情報と比較し、自己・非自己DNA認識分子の同定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題の目標達成には、雑種ヨーロッパトノサマガエルの親2種(ワライガエルとコガタトノサマガエル)のゲノムドラフ解析が必須である。ワライガエルのゲノムドラフト解析は完了したが、2019年度の計画であったコガタトノサマガエルのゲノムドラフト解析は、ゲノム精製などの困難さのため、計画より少し遅れてしまったので、2020年度での計画に切り替えた。現在(2020年4月)、このゲノム解析をTAKARAに委託している。2020年6月までには解析完了の予定である。ゲノム解析には大きな費用がかかるため、2019年度の未使用学1,025,870円の全額と2020年度の予定額1,200,000円の多くを、ゲノム解析委託料として、支払う予定である
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