研究実績の概要 |
瀬戸内海島嶼に生息するアカネズミを対象に、ミトコンドリアDNA Dloop領域およびチトクロームb遺伝子の塩基配列を決定し、類縁関係を推定した。その結果、大島、伯方島、大三島、因島、生口島、江田島、倉橋島、大崎上島、大崎下島、下蒲刈島の個体は単系統を形成したが、島間の関係性は不明瞭であった。本州や四国についても信頼度の高い関係性は得られなかった。一方、遺伝距離に基づき、多次元尺度法により採集地を2次元にプロットしたところ、島のハプロタイプが本州と四国から大きく分化していることがわかり、それぞれの島で遺伝的浮動による独自の進化が起きたことが示唆された。 次に、MIGseq法とGRAS-Di法を用いて次世代シークエンサーで一塩基多型(SNPs)を分析した。既報ののアカネズミのゲノムと比較することで多くの多型の検出を試みた。その結果、MIGseq法では、11,205 SNPs を検出することができた。これらのSNPsに基づき、アカネズミの類縁関係を推定したところ、各島の個体は単系統を形成した。それに加えて、因島-生口島、伯方島-大三島-大島、大崎上島-大崎下島、上蒲刈島-下蒲刈島、倉橋島-江田島の近縁性が見られ、これらの島間の関係性が支持された。一方、GRAS-Di法による多型検出では、94,142 SNPs の検出に成功した。これらのSNPsに基づき、アカネズミの類縁関係を推定したところ、上記の類縁関係に加えて、因島-生口島-伯方島-大三島-大島、大崎上島-大崎下島-上蒲刈島-下蒲刈島がそれぞれ近縁であり、向島と倉橋島-江田島が本州と近縁で、四国は独自の系統であることを示した。地理情報システムにより瀬戸内海の古代河川を推定したところ、上記の類縁関係と一致した。このことは瀬戸内海島嶼のアカネズミの遺伝的分化は、古代河川により引き起こされたことを強く示唆する。
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