研究課題/領域番号 |
18K06400
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
山下 由美 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 支援研究員 (30792543)
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研究分担者 |
遊川 知久 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, グループ長 (50280524)
末次 健司 神戸大学, 理学研究科, 講師 (70748839)
山下 俊之 奥羽大学, 薬学部, 教授 (90192400)
高木 大輔 東北大学, 農学研究科, JSPS特別研究員(PD) (80825654)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 菌従属栄養植物 / 光合成 / 光化学系II / 安定同位体比 / パルス変調時間分解蛍光法 |
研究実績の概要 |
植物の菌従属栄養性獲得過程における光合成機能の進化を明らかにするのが、この研究の目的である。この目的を達成するには、独立栄養から菌従属栄養に進化した遺伝的に近縁な単系統群を用いることが必要である。申請者らはラン科サカネラン属17種の核と色素体遺伝子の複数座の塩基配列情報を用いて系統関係を解析し、普通葉と葉緑体を有する独立栄養種からこれらの形質を持たない菌従属栄養種へ進化し、さらにその中間段階に普通葉は退化するものの葉緑体を有するカイサカネランが位置することを明らかにしている。 初年度は日本産サカネラン属10種の自生個体の炭素と窒素の安定同位体比を調べ、同時に光合成機能を測定した。 まず、サカネラン属植物の栄養摂取様式を炭素と窒素の安定同位体比を用いて評価したところ、普通葉を持つ種では周囲の独立栄養植物と同等で、光合成による独立栄養生活を営むことが明らかになった。一方で、葉を持たない種では炭素と窒素の安定同位体比が独立栄養植物より高く、菌従属栄養生活を送っていることが明らかになった。それは植物体が緑色であるカイサカネランでも同様で、栄養を完全に菌に依存していた。 同時に行った自生地でのパルス変調時間分解蛍光法による光合成機能測定では、葉を持つ種は普通の光合成機能を有する独立栄養植物と同等の量子収率と電子伝達速度を示し、光合成機能を有した。葉を持たない種は量子収率、電子伝達速度ともにほぼ0で、光合成機能を有さなかった。葉を有しないが植物体が緑色であるカイサカネランでも量子収率、電子伝達速度共に0で光合成機能が無いことが明らかになった。 以上のことから、カイサカネランが菌従属栄養性進化の課程での光合成機能変化を追及する上で鍵となることが明らかとなった。次年度以降はこの植物の光合成機能を実験室で詳細に計測した上で、色素体などの光合成機関の形態や機能タンパク質の解析をさらに進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度の水害により調査を予定していた地点のうち数ヶ所へ立ち入る際に通行する林道が崩落し、立ち入り禁止となった。そのために調査が行えない場所が数ヶ所生じてしまい、該当地域での採取や実験などを行うことが出来なかった。そのため、予定していた旅費が一部支出できず、また、採取した試料を外部に委託して分析することが出来なかったので、その分、予算が余った。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の結果を踏まえ2年目からは昨年実施できなかった研究項目を完了すると共に、従属栄養性が低く正常な光合成機能を有すると推定される種と、従属栄養性が高く光合成機能を有しないと推定される種、及び両形質共に中間的な種、の3種の植物体を実験室内に持ち込み、PAM法と酸素電極を用いた光合成酸素発生速度解析を同時に行って光合成活性を精密に評価する。また、植物の葉や茎などからクロロフィルを抽出し、その量やクロロフィルaとクロロフィルbの存在比から色素体の構成を推定する。 上で用いた植物の葉や茎の色素体を透過型電子顕微鏡で観察し、チラコイド膜の形態を調べる。また、チラコイド膜上のタンパク質を抽出し、ウエスタンブロッティング法で光化学系I、光化学系IIのタンパク質の量が菌従属栄養性進化の過程でどのように変化するかを明らかにして、これらのタンパク質の量的または質的変化が光合成活性の喪失と相関するかどうかを調べる。 色素体遺伝子配列を次世代シーケンサーで決定し、属内の近縁種との配列比較、および、既に遺伝子地図が明らかになっている種とのゲノム比較を行い、属内の色素体ゲノム上の光合成関連遺伝子の縮小化や偽遺伝子化がどの程度生じているかを明らかにする。また、明らかになった光合成装置の喪失と遺伝子情報喪失の相関を明らかにし、これらから菌従属栄養性進化の過程で光合成機能変化が起こった機序を推定する。 以上の実験の結果を総合的に検証し、サカネラン属の菌従属栄養性の進化過程で起こった光合成機能の変化のプロセスを、時間軸に沿って説明できる仮説を提唱する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の水害により調査を予定していた地点のうち数ヶ所へ立ち入る際に通行する林道が崩落し、立ち入り禁止となった。そのために調査が行えない場所が数ヶ所生じてしまい、該当地域での採取や実験などを行うことが出来なかった。そのため、予定していた旅費が一部支出できず、また、採取した試料を外部に委託して分析することが出来なかったので、その分、予算が余った。 次年度は立ち入り禁止措置が解除される見込みなので、当該調査地で調査を行って試料を採取し、解析を行う。
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