研究課題/領域番号 |
18K06406
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
小山 耕平 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (70709170)
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研究分担者 |
山本 健 琉球大学, 理学部, 講師 (00634693)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植物生態学 / スケーリング / アロメトリー |
研究実績の概要 |
樹木個体の光合成量の決定要因を解明する理論には、葉の集団を扱う群落光合成モデルと、枝の分岐構造を扱うスケーリング理論(アロメトリー法の発展)がある。二つの異なる理論が統合できれば、両理論は互いの長所を取り入れて一層発展できる。両理論の接点として、枝の分岐構造と陽葉・陰葉の空間分布との対応関係を解明することを研究目的とした。2018年度は樹木の自己相似性の計測のため、観測タワーを1基設置した。これを用いて、世界で初めてミズナラの幹1本のすべての葉の採取・スキャンおよび当年枝の合計葉サイズの計測に成功した。当該年度の主要な研究成果は、まず葉の形態の可塑性に関しては、学術雑誌(Koyama K, Masuda T, (2018) The arrangement of lateral veins along the midvein of leaves is not related to leaf phyllotaxis. Scientific Reports 8:16417,DOI:10.1038/s41598-018-34772-2.)に発表した。個葉サイズの個体内・枝内分布に関して得られた成果について学会発表を行った(EAFES-8および日本生態学会)。さらに、研究の理論的背景をまとめて一般に紹介するために学術書籍(小山耕平(2018)スケーリング(丸善出版「動物学の百科事典」11. 動物の生態, 638-639ページ)(査読有)を発表した。葉の形態に関する研究成果をさらに発展させるために、海外の都市緑化における緑のカーテンへの応用を目的とした共同研究がスタートし、学会発表を行った(Sustainable Built Environment Conference 2019)。現在、未出版の研究成果について学術雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の計画では期間後半に成果を学術雑誌で出版する予定であったが、既に上記の成果が得られているため、個体の繰り返しの計測が成功した時点で2019-20年度内に学術雑誌への投稿を行いたい。当初の計画通り、実験材料となる植物試料の決定、探索および採取に成功し、かつ、計画されていた測定項目について順調に測定に成功した。その結果、当初の予測通りのデータを得ることが出来た。さらに、葉の形態に関しては、当初の計画で期待した以外の新たな知見を得ることが出来た。また、当該年度中に、当該研究計画の遂行のために必要な年輪解析の技術を講習会により習得した。当該年度中に期待した以上の成果が得られたため、国際的な学術雑誌、国際学会、国内学会等での成果発表を行うことに成功している。さらに当該年度の成果を数理的に解明するために、研究代表者は所属機関外の数理物理学者と共同して解析を開始している。以上の理由から、当初の計画以上に進展していることを報告する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた成果をさらに拡充するために、また学術雑誌として発表するにふさわしい信頼できるデータにするために、継続して新たに別サンプルに対して測定を行い、重要な結果についての繰り返し(レプリケーション)を得る。これらの結果と樹木のフラクタル構造との関連について学会発表を行った上で、査読付き学術雑誌上で発表する。具体的な実施計画は以下の通り。調査地は売買川と帯広の森(帯広市)および九州大学北海道演習林(足寄町)で、対象樹種は樹形および科の異なるハルニレ、ミズナラの2種である。ミズナラでは、樹高5-8m程度の樹木に対し10m高所作業車(操作講習受講済み)を用いて1個体あたり葉30枚の光合成速度(光―光合成曲線)を携帯用光合成測定装置Li-6400を用いて測定する。同じ葉の受光量を葉面接着フォトダイオード(=太陽電池、を用いて測定する。採取した葉の葉面積と乾重(LMA)および窒素含有量を元素分析装置で測定する。ハルニレでは、低木を用いて全個体を地上から直接計測する。これらの結果から、葉の窒素含有量と光-光合成曲線のパラメーターとの関係を得て、先行研究と同じ回帰式をフィットする。測定木の地上部全体を伐採し、遮光したビニールハウス内に搬入する。全ての1年生枝の接着点に毎木調査用ラベルを付け採取する。各1年生枝を乾燥機で乾燥し、葉の乾重および窒素含有量を元素分析装置で測定する。上述2の回帰式より、窒素含有量から各1年生枝の光-光合成曲線を得る。これと受光量のデータから各枝の光合成量を得る。測定木を部品(幹、各枝)に分解・乾燥し、各部品のサイズ(合計葉面積、葉乾重、長さ、直径)を測定する。全ての分岐点を識別して接続関係を記録する。分解は基部側の枝から順番に剪定鋏・鋸で切り離した枝にラベル付けまたは番号を書いた封筒に入れていくことで行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度には樹木の自己相似性の計測のため、観測タワーを1基設置した。これを用いて、世界で初めてミズナラの幹1本のすべての葉の採取・スキャンおよび当年枝の合計葉サイズの計測に成功した。そこで2019年度は、この結果を国際的な学術雑誌に投稿することを目標に、新たに2基の観測タワーを設置して、個体の繰り返しおよび他樹種への拡張を行う計画である。また、新たに高所作業車(講習受講済み)を用いた「生きたままの高木の葉の光合成測定」を行うためのレンタル費用が必要である。これらの目的のために、2018年度の予算の一部を次年度使用することが必要である。また、申請時の計画では期間後半に成果を学術雑誌で出版する予定であったが、既に上記の成果が得られているため、個体の繰り返しの計測が成功した時点で2019-20年度内に共同研究者と論文執筆の打ち合わせを行い、学術雑誌への投稿および国際会議での学会発表を行いたい。そのための旅費および英文校閲と出版の費用として使用する。
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