今日の日本では、国土の数パーセントに達する面積に、水稲が作付けされている。細かい違いはあるものの、全体としては全国的に類似したタイミングで田圃に水を入れ、また田圃から水を抜き去っている。このような「管理された氾濫原」である水田は、古来の氾濫原湿地性生物の生息場所として、現在までに多大な貢献をしてきたとされているが、その一方で、水を入れる時期(湛水時期)をほぼ統一しているため、古来の氾濫原湿地性生物に、湛水時期という淘汰圧をかけてきた、とも言える。ただし、このような淘汰圧をくぐり抜け、今日の「管理された氾濫原」である水田に生息する生物がもつ生態特性と、それを可能とする遺伝的背景については、あまり理解されないまま現在に至っている。この点について、動物プランクトンを対象に解析を進めた結果、湛水時期が短い「水田」に分布する動物プランクトン種と、湛水時期が(少なくとも水田よりは)長い「湖沼やため池」に分布する動物プランクトン種とは、完全には一致していないことがわかった(主に「水田」に出現する種と主に「湖沼やため池」に分布する種とに別れた)。その理由を検討するために「水田」と「湖沼やため池」に分布する動物プランクトン種との間で、遺伝的な差が見られるか否かについて検討した。具体的には、リボソームRNA遺伝子のコピー数に着目し、その総体コピー数(ハウスキーピング遺伝子のコピー数に対する、リボソームRNA遺伝子のコピー数)が、「水田」に分布するミジンコ類では「湖沼やため池」に分布するミジンコ類よりも大きくなる可能性についても検討した。
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