研究課題/領域番号 |
18K06411
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
工藤 起来 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (70444180)
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研究分担者 |
土田 浩治 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (00252122)
岡本 朋子 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (50588150)
小路 晋作 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10447683)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 優劣関係 / オキナワチビアシナガバチ / 個体認識 / 体表炭化水素 |
研究実績の概要 |
本年度の目的は、オキナワチビアシナガバチの多雌コロニーにおいて、優位な創設メスと劣位な創設メスの間で、嗅覚による個体認識が行われているかを検討することである。昨年度までの成果から、オキナワチビアシナガバチの多雌コロニーでは、アシナガバチ属で示されてきたような、視覚による個体認識が行われている証拠が得られなかった。このことは、仮に創設メス間で優劣についての個体認識がされているとすれば、嗅覚を利用するだろうということが示唆される。
2021年3月下旬、沖縄県読谷村の8集団と糸満市の2集団において、合計66の多雌コロニーを見つけ、巣上のすべての創設メスに個体識別が可能なマーキングを行った。ほとんどのコロニーは卵期であったが、幼虫が孵化していたコロニーもあった。この後、次年度(2021年4月)にもこれらの集団を訪れ、創設メス間の優劣関係を把握するとともに、優位個体と劣位個体を異巣に導入する実験を行う。昨年度までの研究から、創設メス間の優劣関係が時間経過とともに変化するかを検討してきた。実際に、連続した3ヶ月の調査で録画したいくつかのコロニーでは、優位個体が変化した場合があった。このような場合、以前は劣位であったにも関わらず、以降の調査時には優位へと変化していた。これら3回の調査では、それぞれの個体からCHCsを抽出していたので、劣位だった個体が優位になったとき、CHCsを変化させていたかを検討することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、オキナワチビアシナガバチの創設期の多雌コロニーにおいて、主に視覚や嗅覚によって、創設メスの繁殖ステータスが異なっているかを検討することである。初年度の成果から、優位個体(繁殖メス)と劣位個体(非繁殖メス)の間で、頭部の模様の面積や体サイズに差がないことが示された。この結果は、本種の創設メスが、視覚によってコロニー内で優位、あるいは劣位であった個体を区別できないこと示唆している。
そこで次に、嗅覚による個体認識が行われているかについて、検討を始めた。これまでの野外調査では、多雌コロニーにおいて、創設メスに個体識別のためのマーキングを行い、各個体から体表炭化水素(Cuticular hydrocarbons, 以下CHCs)を抽出してきた。優位個体と劣位個体の間で、CHCsの違いがあるかを検討している。また、本年度から、優位個体と劣位個体が他コロニーで認識されるかについての野外実験を開始した。多雌コロニーにおいて、優位個体と劣位個体を把握し、それらを他コロニーに導入する。もし、優位個体に特有なCHCsが存在するならば、優位個体は他コロニーから受け入れられることはなく、激しく攻撃されるだろう。一方で、劣位個体については、他コロニーでは労働力となり、受け入れられ可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、多雌コロニーにおける創設メス間の優劣関係を録画するとともに、CHCsを採取してきた。録画データの解析についてはほぼ終えたので、CHCsの分析に着手する。優劣関係とCHCsのデータを照合させることにより、優劣関係がCHCsによって変化しているかを検証することができる。
また、オキナワチビアシナガバチの多雌コロニーでは、しばしばコロニー間で創設メスが移入することがある。仮に個体間の優劣関係がCHCsによって区別できた場合、移入してきた個体が、卵巣を発達させていた優位な個体であった場合には、受け入れコロニーからは、拒絶されることが予測される。逆に、劣位な個体が移入してくる場合には、その個体が労働に専念することが期待され、受け入れコロニーにとっては利益があるだろう。そこで、優劣関係を特定したコロニーから、優位個体と劣位個体を他コロニーに導入し、このような受け入れられ方の違いがみられるかを評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度についても、野外調査を長く行う必要がある。そのためには、調査補助としての人件費や旅費が多く必要と考えられたため。
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