島嶼の河川に生息する淡水魚の分散の実態・分散能力の退化の有無を明らかにすることを目的として研究を実施した。2020年度は,佐渡島の約20河川,隠岐諸島の13河川,また比較対象として本州の上越の7河川にて野外調査を実施した。対象種であるハゼ科,カジカ科を採集し,それぞれの島と地域における河川や周辺状況について環境要因の計測を行った。また,約100個体について,耳石を用いた微量元素分析を行い,河川で採集した卵塊から仔魚を得て,形態観察と飼育実験を行った。2020年度に予定していた海外と琉球列島での調査はcovid-19の影響により実施できなかった。 3ヵ年の研究により,島嶼の淡水魚はその多くが生活史の一時期に海を利用していることが明らかとなった。このことから,島嶼の陸生動植物と比較して,分散能力を維持していることが分かった。一方,個体レベルのマイクロハビタットや季節的な河川内移動の調査から,島嶼における淡水域の利用形態は,これまで知られている同種や近縁種の本州など大規模な河川でのものとは異なることが分かった。また,仔魚の形態や塩分耐性の実験からは,海よりも淡水よりの傾向がみられた。限られた空間である島嶼の淡水域においては,残留型によってその場所に留まるよりは,特異な環境に適応した生態や分布形態を獲得しつつ,分散の可能性を残すという方向性をもつ可能性が考えられた。 本研究は,これまで知見のなかった対馬暖流域の島嶼の淡水に生息する魚類について基本的な生態情報を得たことに加えて,そこから島嶼の淡水魚の分散について明らかにした。これらの成果は,島嶼の生物学,魚類の生態学に重要な知見となった。
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