研究課題/領域番号 |
18K06414
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
村松 大輔 奈良教育大学, 自然環境教育センター, 特任准教授 (80635417)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 雄間闘争 / ブラフ / いかさま / 野外実験 / ハクセンシオマネキ |
研究実績の概要 |
令和元年度に開始した和歌山市和歌浦干潟での調査により得られた闘争データをまとめ、鉗脚の先を光硬化樹脂で繋いで激しい闘争ができないよう操作した「操作オス」どうしの闘争と、鉗脚の先を繋がない状態で鉗脚に光硬化樹脂を付着させた「コントロールオス」どうしの闘争を比較する研究を行った。しかし、コントロールオスどうしの闘争はサンプルサイズが不十分で、解析に耐えうるものではなかった。これは観察された闘争の約半数を占める操作オスとコントロールオスの闘争がサンプルとして使えず、効率が悪かったことが主な要因である。ある程度のサンプルが確保できた操作オスどうしの闘争と比較するため、過去に同じ場所で行った光硬化樹脂を使わない状態での観察データ(つまり「無操作オス」どうしの闘争データ)を比較対象として解析を進めた。解析の結果、いずれの組み合わせでも (1)鉗脚長の長いオスが勝ちやすいこと、(2)再生型より通常型の鉗脚を持つオスの方が勝ちやすいこと、(3)同じ利き手どうしの闘争の方が通常型オスの勝率が高いことが示された。さらに、鉗脚長の影響を統計的に除去したモデルによると、(4)利き手の異なる無操作オスどうしの闘争では通常型オスの勝率が73%であったのに対し、(5)利き手の異なる操作オスどうしの闘争では通常型オスの勝率が53%であった。これは鉗脚の噛み合わせができない条件下では再生型オスのイカサマが成功しやすいことを示している。これらの結果は国際会議「Animal Behavior Society 2020」で発表し (Muramatsu 2020, Testing counter-bluff tactics in fiddler crab contests)、さらに講演ビデオをYouTubeで広く一般公開した (www.youtube.com/watch?v=qmdV1rVX_xI)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の2018年は研究代表者である村松がプロジェクト研究員として時給で雇用されていたため、(1)時給で雇用されている間はプロジェクト専任義務がある、(2)科研費は何らかの経費で雇用されている期間のみ執行可能、の2点を両立できず、科研費による野外調査を実行することが叶わなかった。その遅れが現在も解消できていないため、研究期間を1年延長して野外調査を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度のサンプルサイズ不足を補うため、研究期間を1年延長し、令和2年度に操作オスどうしの闘争のみ、令和3年度にコントロールオスどうしの闘争のみを調査することにした。操作個体とコントロール個体の観察が同年に行えないのは理想的ではないが、年を分けることによって観察される闘争の約半数のみしかデータとして使用できない問題点は解消される。 令和2年度には282個体のオスを捕獲し、背甲にマークしたのち、すべてのオスを操作オスとして処理したのちに、自然に起こる闘争を896例ビデオ記録した。Covid-19の蔓延状況にもよるが、令和3年度にも同様のサンプルサイズを確保できる見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の職務上の制約により科研費を使用した出張を行うことができず、野外調査が実行できなかった。その遅れが取り戻せていないため、研究期間を1年延長し、経費を次年度に繰り越すこととした。
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備考 |
自個体および他個体のサイズ認識、さらにそれらを基にした繁殖戦略について、Nakhon Si Thammarat Rajabhat大学のFahmida Wazed Tina博士と共同研究を行っており、既にに2本の論文 (Tina and Muramatsu 2020, 2021) が発表されている。これらを科研費採択課題と組み合わせ、シオマネキ類のサイズ認識についてより深い知見を得ることができる。
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