ハクセンシオマネキの雄間闘争におけるブラフ戦術の効果を確かめるため、ハサミの先を樹脂で繋いで闘争の激化を防いだ操作オスどうし、あるいはハサミの先を繋がないように樹脂を付けたコントロールオスどうしの間で自然に起きた攻撃的交渉を観察・撮影し、通常のハサミを持つ通常型オスと、貧弱なハサミを持つ再生型オスの勝率や闘争形態がどのように異なるのか比較した。また、利き手 (武器となるハサミのある側) の組み合わせが同じであれば闘争時にハサミが噛み合わせやすく、逆であれば噛み合わせにくいため、噛み合わせを嫌う再生型オスの勝率が利き手の組み合わせに影響を受けるのかについても調査した。記録された1618回の攻撃的交渉を基に、体サイズ (甲幅)、武器サイズ (ハサミ長)、ハサミ形状 (通常型/再生型)、利き手 (同じ/逆)、操作の有無 (操作あり/コントロール)、巣 (巣持ち/巣なし) の影響をモデリングして解析したところ、体サイズあるいは武器サイズ・ハサミ形状・巣・利き手の影響が強く、ハサミへの操作の有無はあまり影響していないことがわかった。最適モデルに残った変数は体サイズ・ハサミ形状・巣・利き手の4つであった。最適モデルによると、両者が巣持ちで体サイズが等しい場合、再生型オスに対する通常型オスの勝率は、利き手が同じ闘争では85.6%、利き手が異なる闘争では74.3%となった。これは、(1) 通常型オスは再生型オスが相手だと勝ちやすいこと、(2) 利き手が同じ闘争であれば再生型オスの勝率が下がることを示している。ハサミを樹脂で繋ぐ操作があまり勝敗に影響していなかったことから、再生型オスは実際にハサミを噛み合わせなくとも、利き手の同じ闘争では引き下がりやすかったものと考えられる。現在、以上の結果をまとめた論文を執筆中である。
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