研究課題/領域番号 |
18K06418
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
奥田 敏統 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 特任教授 (20214059)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 熱帯雨林 / シロテナガザル / 林冠 / 温度 / 音声伝播 / 鳴声 / 逆転層 |
研究実績の概要 |
林冠に生息し、またアンブレラ種として、熱帯雨林構成種の種子繁殖に貢献しているシロテナガザル(Hylobates lar, 以下Gibbon)に焦点を当て、彼らが個体間で交わすcallの発生頻度が森林の垂直方向の要素や林冠面との微気象関係とどのような関係がみられるかについて調査を行った。前年度までの研究で、Gibbon 鳴声(めいせい)の発生点との地形や林冠高と高い関連性があることが分かったが、時間的にも早朝(夜明け)~10時ころまでに集中するため、林冠上部から林冠表面にかけて形成される温度勾配の影響があるのではないかと、その関連性について調べた。この背景には、森林内部で形成・保持される冷い空気と林冠面接地面で形成される暖気との間で逆転層が形成され、音声伝播の際にドップラー効果が発生し、鳴声がより遠方に運ばれる可能性があると考えたからである。その結果、gibbonの名声が高頻度で発生する時間帯には温度勾配の逆転層が形成されていることがわかった。正午以降は林冠直下の大気層が温められ、逆転層が不明瞭となることもわかった。また、森林内に人工的に作り出した林冠ギャップ(半径50m程度)では、こうした温度の垂直分布が、朝の早い時間帯で不明瞭となることが分かった。 また、調査地に設営されている2本の林冠タワー(高さ55mと45m)との間で、人工的な規則音の伝播速度の測定を行い、その時間的変動についてしらべた。残念ながら測定機器(拡声器)のパワー不足により十分な音波受信ができなかったが、音波のタイムラグを簡便な機器で抽出できることが分かった。 以上の調査により(これまでの研究成果も含めて)、Gibbonの鳴声は、時間的には林冠面の温度勾配と、また空間的には林冠面の高さや立地の地形などと密接な関係があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の感染拡大により、予定した頻度で、海外調査が実施することができなかったが、マレーシア側のカウンターパートの協力のもと、マレーシアの熱帯雨林で2度、現地調査が行えた。 また、本研究は林冠面の時空間的な変化と林冠動物の音声(鳴声)伝播についての関係を明らかにすることが趣旨であるが、特に今年度は予定していた、林冠微気象の時間的変動と鳴声発生との頻度について調査が行たこと、また両社との間に明瞭な関係があることを明らかにしたことなどの研究成果を上げることができた。さらに、人工的に発生させた音波の速度についても簡便な測定手法の開発ができたことなどにより、研究は順調に進捗している。さらに、えられた林冠判読技術を利用して、他のバイオームでの森林の時空間的な変動を抽出する技術開発も行えた。 研究成果については、国際商業誌に1本、本研究で得た技術(林冠や土地利用の判読技術など)を他研究に応用した成果5報を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度もCOVID-19の感染拡大によりマレーシアでの野外調査を予定していた頻度で実施することができなかった。とはいえ、マレーシアのカウンターパートとは密接に連絡を取っており、今後の研究展開(手法の改良など)について協議を重ねることができた。 1.2023年度まで延長することになっており、現地調査を実施し、とくに、林冠面での音声伝播速度について再実験を再開する予定である。それをもとに、Gibbon鳴声の発生時間帯、林冠環境との関連性についてより詳細なデータを取得する。 2.サーモグラフィ―カメラを用いた林冠面での温度勾配がどこまで精緻に測定可能かについて調査をおこなう。ドローン搭載型のLiDARにより林冠高の測定をおこない、これまで固定翼型航空機に依存してきた測定作業が、どこまでon demand測定に切り替えられるが、検証をおこなう。 3.林内における音声伝播についても、伝播速度の可能性について検証する。林冠下部から林内中層にかけても濃度勾配が形成されている可能性があり、林内の他の動物相の鳴声の発生時間およびその多様性と森林内部環境との関連性について予備的研究をおこなう。 4.関係者+関連分野の研究者などでWorkshop開催を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の感染拡大によりマレーシアでの野外調査を予定していた頻度で実施することができなかった。未執行の研究費については以下の野外調査や関連分野の研究者との会合開催に伴う費用に充てる。 1.マレーシア熱帯林で現地調査を実施し、林冠面での音声伝播速度について再実験を再開する予定である。それをもとに、Gibbon鳴声の発生時間帯、林冠環境との関連性についてより詳細なデータを取得するための現地調査をおこなう。サーモグラフィ―カメラを用いた林冠面での温度勾配がどこまで精緻に測定可能かについて調査をおこなう。ドローン搭載型のLiDARにより林冠高の測定をおこない、これまで固定翼型航空機に依存してきた測定作業が、どこまでon demand測定に切り替えられるが、検証をおこなう。 2.林内における音声伝播についても、伝播速度の可能性について検証する。林冠下部から林内中層にかけても濃度勾配が形成されている可能性があり、林内の他の動物相の鳴声の発生時間およびその多様性と森林内部環境との関連性について予備的研究をおこなう。
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