本研究では、近年個体数が著しく減少した四国山地に生息するカモシカ集団に着目し、約10年間にわたって収集・保存してきたカモシカの糞サンプルについて遺伝的解析を行い、1)カモシカの遺伝的分集団構造の把握、2)個体数減少前後でのカモシカ集団の遺伝的構造の違いを空間的・時間的に明らかにすることを目的とする。また、カモシカの糞DNA解析法を今後幅広く普及させるために、サンプリング法、糞サンプルの保存法、DNA抽出法を比較し、より効率の高い方法を特定することを目的とする。 本年度では、前年度に引き続き、四国山地で広域的なカモシカの糞サンプルの収集を行い、得られた糞サンプルについてDNAの抽出、マイクロサテライト遺伝子座、SRY遺伝子による性決定など遺伝的解析を行った。さらに、2009年以降に収集・保存してきたカモシカの糞サンプルについて同様の解析を行った。マイクロサテライトのアリルの特定は、ジェノタイピングエラーを考慮し、1サンプルにつき3~5回のPCR増幅を行った。解析の結果、比較的最近収集した糞サンプルについては9つ全てのマイクロサテライトマーカについてアリルを特定することができた。しかし、2009年~2014年にかけて収集した古いサンプルでは、マイクロサテライトマーカの種類によって増幅成功度が異なっており、9つのうち増幅できたのは4マーカーと少なかった。解析によって得られたデータを用いて、カモシカ集団の遺伝的多様性を年度ごとに比較し、カモシカの個体数減少と遺伝的多様性の変化について明らかにした。
|