国内各地で多種のアリ類を採集して女王アリと働きアリの卵巣小管数を算定するとともに、飼育下で働きアリによる栄養卵産卵の有無、栄養卵の消費のされかたなどについて調査した。また、これまで蓄積してきた世界各地のアリ類の卵巣小管数の知見をまとめようとした。主な結果は以下の通り。(1)2018年度以前も含めて、これまでに13亜科141属390種を解剖し、女王と働きアリの卵巣小管数を記録した。ハリアリ群の働きアリは多くの種が6本か8本であったが、女王が2本や4本しか持たない種では働きアリも同様に2本や4本であった。ヤマアリ群の働きアリでは2本の種が多かったが、カタアリ亜科では体サイズが著しく小さいコヌカアリ属でも4本もち、他の属も4本以上の種が多かった。卵巣小管がまったくない種が14属で見られ、そのうち12属では属内の全ての種の働きアリが卵巣を持っていなかった。これらの結果をコロニーサイズやカスト分化程度などと関連させて卵巣小管数の多様性の意義を議論する予定である。(2)ヨナグニアシナガアリを中心にアシナガアリ属の行動を調査した。ヨナグニアシナガアリでは女王存在下では働きアリが栄養卵を産み、その多くが幼虫に与えられた。女王は直接餌を食べるか栄養卵を食べたが、栄養卵生産頻度と女王による摂食頻度は餌条件で変化し、餌がない条件では栄養卵の生産頻度が有意に高くなり、女王による摂食頻度も高くなる傾向があった。同様な傾向がアルゼンチンアリをはじめとするいくつかの種類で観察された。(3)卵巣を保持している種について、女王不在条件で飼育したとこと、多くの種では働きアリが繁殖卵を産み、オスが生産されたが、アルゼンチンアリでは卵生産が観察できなかった。
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