国内各地をおとずれアリ類のコロニーを採集するとともに、飼育観察や解剖によって働きアリの栄養卵産卵の有無と働きアリによるオス卵生産の有無を中心とした調査を継続した。(1)これまでの調査結果をまとめた論文を執筆しているが、残念ながらまだ完成には至らなかった。研究開始1年で13亜科141属390種であったが、現在は、145属548種のデータが得られている。このデータに基づいて、アリ類における女王と働きアリの卵巣小管数の多様性についてアジアアリ類研究国際ネットワークの研究会で発表した。(2)ウワメアリ属群については、これまでにサクラアリ属など4属について観察し、その結果をまとめて昆虫学会で発表した。これにくわえて未観察だったムネクビレアリ属とニセケアリ属の観察を実施し、いずれも働きアリは栄養卵を産み、主に幼虫に与えられており、女王に与えられることはなかった。この属群ではサクラアリ属でのみ女王への積極的な栄養卵供与がある点で特異であることが判明した。(3)ヤマアリ亜科でいまだ栄養卵が確認出来ていないオオアリ属について女王の行動や幼虫への給餌行動を5種を対象に観察したが、働きアリによる栄養卵の産卵は確認することができなかった。(4)働きアリに卵巣がないシワアリ属3種の餌利用や巣内の給餌行動を観察し、女王アリはいずれの種でもおもに働きアリからの口移しによって栄養を得ており、固形餌を直接摂食することは稀だった。(5)ハリアリ亜科の稀種であるエメリハリアリのコロニーの行動を観察した。このコロニーには形態的に区別できる女王は含まれていなかった。様々な餌を与えて反応を観察したところ、本種はフサヤスデ専門職者であることが判明した。働きアリは餌として与えたフサヤスデの毛を南米産のバリカンハリアリとそっくりな方法で抜きとり、直接摂食し、破片を幼虫に与えた。栄養卵産卵は観察できていない。
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