研究課題/領域番号 |
18K06422
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
竹垣 毅 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (50363479)
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研究分担者 |
阿見彌 典子 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (20588503)
菅 向志郎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (60569185)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 進化 / 行動生態 / 子の保護 / 子殺し / 内分泌 / ホルモン / フェロモン / 魚類 |
研究実績の概要 |
親が保護中の卵を全て食べる全卵食行動は、保護卵数が少ない場合など、保護のコストが保護成功から得られる利益を上回る際に起こる適応的な繁殖戦略である。一般にその収支には卵を食べる栄養利益も含まれるが、ロウソクギンポの雄の全卵食は、栄養利益を期待するのではなく、自身の求愛活性を内分泌的に高めるために卵の存在を消す「子殺し」であることが分かっている。本研究では全卵食行動の進化を解明する一環として、行動生態学と内分泌学の両面から全卵食が発現するメカニズムを明らかにすることを目的とした。 (1)魚類を含む多くの分類群で子の保護行動を調節する脳内ホルモン・プロラクチン(PRL)と、PRLの分泌及び摂食行動を調節するPRL放出ペプチド(PrRP)に着目し、保護と摂食の両行動の活性バランスによって全卵食が発現する新たな仮説の検証を試みた。PrRPの投与実験により、本種のPrRPに摂食抑制機能があることが示された。また、PRL阻害剤の投与実験により、PRLは本種でも保護行動を促す機能を持ち、さらに卵食行動の発現にも関わることが示された。これらの結果から、本種の全卵食行動がPrRPとPRLの分泌量減少に伴う摂食促進と保護抑制の相乗作用で発現する可能性が強く示唆された。(2)全卵食行動の発現に与える雄性ホルモンの効果を調査し、雄が血中11-KT濃度が低下して求愛できなくなってから全卵食していることが明らかとなった。(3)卵海水を雄に曝露することで血中11-KT濃度が低下し、保護行動を増加させたことから、雄はフェロモン刺激で卵を認識できることが示唆された。その一方で、卵数の違いは認識できていないようであった。これらの結果から、本種の全卵食が発現するメカニズムの枠組みが明らかとなってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではロウソクギンポ雄の全卵食行動が、PRL放出ペプチド(PrRP)によって調節される卵保護行動と摂食行動の相乗効果で発現することを3つの研究から検証する計画である。 【1】PRLが卵保護行動に与える効果の検証:PRL阻害剤の投与実験を行い、雄の卵保護行動が阻害されることが確かめられた。 【2】保護卵数がPRL分泌量に与える効果の検証:無保護雄に卵飼育海水(多数卵条件・少数卵条件)を曝露して、雄が卵からの化学シグナル(フェロモン)を受信して卵の存在を認識し保護行動が発現することが確かめられたが、予想に反して卵数は認識できないという結果が得られた。保護雄のPRLレベルを比較する段階には至っていない。 【3】PrRPが全卵食行動発現に与える効果の検証:PRL阻害剤の投与実験から雄の卵食が促進されることが検証された。PrRPの野外投与実験はまだ行っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果から、本種の全卵食が発現するメカニズムの枠組みが概ね予想通りであることが示唆された。以下の問題点を解決することで研究をさらに推進する予定である。 問題点(1)卵保護雄は卵のフェロモンだけでは卵数を認識できていなかった。今後は、実験デザインを改善すると同時に、卵の触覚刺激や視覚刺激など他の感覚情報と組み合わせて認識している可能性についても検討していく。 問題点(2)PRL阻害剤の投与実験は予想通りのクリアな結果が得られたが、PRLの分泌量の測定が思わしくない。今回は脳下垂体内のPRL遺伝子の発現量を測定したが、今後はPRL受容体の遺伝子発現量を測定するか、あるいは放射免疫測定法など別の測定方法についても検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究結果から、当初計画していたよりも次年度以降の遺伝子解析の頻度が増加することが明らかとなったため、初年度に予定していた設備備品の購入を取りやめた。今回生じた次年度使用額の大半は遺伝子解析の費用として用いる予定である。
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