研究課題/領域番号 |
18K06422
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
竹垣 毅 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (50363479)
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研究分担者 |
阿見彌 典子 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (20588503)
菅 向志郎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (60569185)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 親による子の保護 / 子殺し / 進化生態 / 行動生態 / 摂食行動 / 内分泌 / ホルモン / プロラクチン |
研究実績の概要 |
本研究ではロウソクギンポ雄の全卵食行動が、PRL放出ペプチド(PrRP)によって調節される卵保護行動と摂食行動の相乗効果で発現することを検証することを目的としている。繁殖期(2019年8月)に野外で卵保護中の雄の卵を一部除去することで全卵食を誘発させた全卵食雄と、卵を除去しない卵保護中の雄、給餌して満腹状態の摂食中の雄を採集し、現場で脳を灌流固定して研究室に持ち帰った。(1)神経活動マーカーとして用いられるpS6に対する一次抗体を用いて免疫染色を行い、脳内の10領域の神経活動活性を各条件雄間で比較した。その結果、視索前核小細胞部前部(Ppa)と終脳腹側野交連上部(Vv)で卵保護雄よりも全卵食雄で活性が高い傾向が見られたが、3群間で有意な差はいずれの領域においても検出されなかった。これらの結果から、全卵食欲求と摂食欲求を制御する高次の情報処理機構の違いを終脳の神経活動の比較から検出することは難しいことが分かった。また、摂食関連ペプチドを産生するニューロンが局在する外側結節核(NTL)や外側陥凹核(NRT)領域で全卵食雄の特異性が見られたことから、全卵食に特異的に関係する脳領域は、終脳よりも間脳視床下部にある可能性が示唆された。現段階では計測したサンプル数が合計10個体と少ないため、さらにサンプル数を増やして検討していく必要がある。(2)本研究では保護と摂食両方を制御するPrRPに着目しているが、魚類の摂食行動に関与するホルモンは数多く存在する。そこで、採集した全卵食雄と卵保護雄の脳内に特異的に発現する遺伝子を抽出するために脳全体のRNA-seqを行って網羅的な遺伝子発現調査を試みている。現在は予備実験として各条件1個体ずつ測定しており、データのde novoアセンブリとアノテーションまで完了している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では昨年度に引き続いてPRLあるいはPrRPを投与する実験を行う予定であったが、それらの実験を評価するためのPRLの脳内遺伝子発現量の定量が安定しておらず、継続して検討中である。しかしながら、脳の組織学的なアプローチによりそれらを評価する方法が確立されつつあると同時に、脳内の網羅的な遺伝子探索により、これまで手が回っていなかった複数のホルモンの挙動についても把握できる目処がつき、今後につながる成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
PRLの脳内遺伝子発現量の定量については、PRL受容体の遺伝子発現量の測定にシフトして定量を試みている。脳の組織学的な検討については、未測定のサンプルの処理を進めると同時に、ロウソクギンポのPrRP抗体を精製し、脳内のPrRP活性の定量化を目指す。さらにRNA-seqにより条件間に遺伝子発現の特異的な差異が見られたら、今年度に新たにサンプルを採集してデータを充実させる。昨年度までに実施したPrRP投与実験(投稿済)とPRL阻害実験の成果を学術論文に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたホルモンの投与と測定が行われなかったためホルモンや測定キット・試薬の購入が必要無かった。次年度に脳内ホルモンの遺伝子発現調査(RNA-seq)を実施するためその費用として用いる予定である。
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