研究課題/領域番号 |
18K06426
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
鈴木 準一郎 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (00291237)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラメット / 同化産物 / 生理的統合 / 季節的枯死 / 転流 |
研究実績の概要 |
クローナル植物とは、葉と茎や花からなる地上茎と根からなる植物体(ラメット)が、地下茎や匍匐枝といった器官を介して栄養繁殖により、複数連結した植物の総称である。温帯以北の生態系に生育する草本種の70%以上を占めると言われているクローナル植物では、ラメットの自己間引きが一般的には見られない。なぜクローナル植物では自己引きが生じないのだろうか、本研究では、この「問い」に栽培実験により答えることを目指す。この「問い」に対する機構的な回答として、これまではラメット間の生理的統合(「稼ぎ」の良いラメットが「稼ぎ」悪いラメットに光合成による同化産物や地下部で吸収した水や栄養塩を輸送する)や温帯以北という生育環境に起因する季節的な枯死(多くの草の地上部は冬に枯れる)が強調されてきた。本申請では、クローナル植物に共通する特徴として、発達した地下貯蔵物質に着目した。多量の貯蔵物質を蓄えるためには、クローナル植物は、地上部を展開した直後の生育シーズンの初期(春先)から同化産物の貯蔵を行う必要があると考えられる。この貯蔵により個々のラメットの成長は抑制され、自己間引きが生じるようなサイズ依存性の強い成長をらメットが示すことはない。つまり、同化産物は地上部の葉や茎の成長に使われるだけではなく、地下の貯蔵にも転流されるという仮説を、栽培実験によって検討する。そのために、古典的な植物生理学の実験手法であるsteam girdling(蒸気で植物の師部のみを焼き殺すという手法)を用い、地上部の同化産物の地下部への転流様式を変化させることで、ラメットの成長が制約から「解放」されることを明らかする。このことを通じて、温帯域のクローナル植物であっても、自己間引きをすることを示し、クローナル植物の研究者にとっての長年の疑問を栽培実験により明らかにすることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、予定よりもやや遅れ気味である。特に2018年度に予定していた材料のキクイモの栽培が十分に行えなかった。その最大の理由は、採集予定地であった河川敷の大規模改修のため、十分量の植物が入手できなかったためである。また、採集できた少数の植物は、2018年7月の記録的な猛暑のために、成長や塊茎の生産に、大きな影響を受けた。とくに梅雨時期の少雨が影響し、十分に成長しない個体も見られた。次年度の材料を確保するため、野外由来のキクイモの利用に加え、農業用に生産されているキクイモも利用することとし、その塊茎の提供を受けた。 一方で、古典的な植物生理学の実験手法であるsteam girdling(蒸気で植物の師部のみを焼き殺すという手法)が、地上部の同化産物の地下部への転流様式を変化させ、その結果、地上部の成長が増大しうることをイタドリを用いた予備実験によって明らかにすることができた。steam girdlingに用いる蒸気の発生源としては、家庭用のスチームクリーナーが有効だった。シリコン栓を介せばスリームクリーナーの排気口に、パスツールピペットを接続でき、steam girdlingに十分な量と温度の蒸気を得ることができた。ただし、steam girdling処理を施した植物の多くに、サビ病が発生しやすいことが明らかとなった。そのため、steam girdling処理部に、植物用の抗菌剤を塗布するなどの対策を検討する必要がある。steam girdlingの程度を茎の被覆材の量により調整することは、可能ではあったが、植物のサイズや発達段階によってsteam girdlingの影響が大きく異なった。より高い定量性をえるためには、より多くの植物で予備実験を重ねる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
予定よりも進捗は遅れ気味ではあるが、ほぼ予定通りの実験を今年度は行う予定である。 実験1:地下に貯蔵物質(塊茎)を有するが、塊茎間の繋がりはすぐに失われるキクイモを用いて、steam girdlingによって、物質分配様式を変更させる。steam girdlingによる損傷が増加すると、地下の根および塊茎への物質分配が減少し、地上茎のバイオマスが増加することを定量する。要因は、steam girdlingによる師部の損傷の程度とし、4水準(コントロール(損傷なし)、地際茎の1/4が損傷、地際茎の1/2が損傷、全体が損傷)を設定する。一つの塊茎を一つのポットに植え、本葉が4枚展葉した時点で、steam girdling処理を施す。各条件10反復を設け、乱塊法に則り、首都大学東京の圃場のビニールハウスに鉢を配置する。steam girdling処理の40日後に植物を刈り取り、地上茎の高さ、地際径を測定したのち、葉、茎、根、塊茎に分け、70度のオーブンで72時間乾燥後に秤量する。そこからsteam girdlingの処理の影響を一般線形モデルで解析できる。 実験2:実験1と同様にsteam girdlingによって物質分配様式を変更させるが、steam girdlingによる損傷の程度は、地際茎の1/2が損傷のみとする。一方で、一つのポットに植栽する塊茎の密度を変える。 上記に並行して、来年度に向けてより多数の塊茎をえるために、大型のプランターにキクイモを植栽する。
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次年度使用額が生じた理由 |
材料であるキクイモ塊茎の採集量が予定していたよりも少なく、また実験の途中で枯れたものが多かったために、成果発表を見送ったために、予定していた旅費が大幅に少なくなった。また、秤量の必要があるサンプル数も少なくなったために、予定していたマイクロ天秤の購入を見送り、当該機器の利用は、学内での借用で済ませた。 使用計画としては、当初の予定の使用に加えて、steam girdling後の養生に用いる人工気象室の照明に不具合が生じているので、その修理費としての支出を予定している。
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