研究課題/領域番号 |
18K06427
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
太田 和孝 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 客員研究員 (50527900)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 代替繁殖戦術 / 意思決定 / 繁殖 / 移動生態学 |
研究実績の概要 |
浅海性魚類ヘビギンポを用いて繁殖をめぐる争いを「情報戦争」の観点からアプローチしすることでスニーキング戦術の進化に関する理解を深めることを目指した。その目的に沿って研究を進める中,「なわばり雄はどのようにスニーカーを発見するのか」という視点から詳細な野外調査を実施する予定だった。具体的には,観察例が多くはないが,昨年までの結果から,なわばり雄とスニーカーが産卵中の巣周辺で見せる動きがブラウン運動に類似していることが示唆されており,本年度は長時間追跡の観察例を増やすことを目的とした。本種の繁殖が活性化する5月から1.5か月の予定で実施する予定だったが,この期間は新型コロナの蔓延に伴う緊急事態宣言の発令中及びその直後であったため,調査期間は約10日間に縮小された。そのため期待していたような観察例数の増加はできなかったが,それでも4例の観察を増やすことができた。昨年までと同様にほとんどのスニーカーはブラウン運動で説明できる移動パターンが見出されたが,なわばり雄は個体によってばらついた。追跡時間の短い個体を除けばランダムウォークの個体が多かったのでおそらく特定の移動パターンを持っていると期待される。引き続き,追跡時間の長いサンプルを増やす必要がある。さらにこの調査で得たビデオから,スニーカーがなわばり雄に見つかり攻撃を受けた際に逃げる方向性が一定ではなく,満遍なく様々な方向に逃げていた(逃避の方向が一様分布だった)ことが分かった。これは「プロテウス的防衛(Protean defense)」と呼ばれる戦略であり,スニーカーのランダム・ウォーク的移動パターンの中身にその戦略が関わっていることが示唆された。先に見つけたトライアル・アンド・エラー戦略と合わせて考えると,本種は繁殖機会を得るために情報を利用するだけでなく,ランダム性を利用しているという結論に達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
緊急事態宣言中の調査を自粛したために一昨年は調査できず,今年度も10日しか調査ができなかった。そのため,当初目標としていた成果に届いておらず,順調とは言い難い。岩の形が歪であるために,なわばり雄がしばしばビデオの範囲外に出てしまって追跡に失敗することがあるという問題も判明した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から情報を駆使した戦略の存在が期待される中で,ランダム性という予想外の結果が出てきた。緊急事態宣言による調査の自粛のために思うように調査は進んでいないが,この可能性を考慮して計画を立てている。しかし,なわばり雄の移動は鍵となるが,その動きを長時間追跡することが難しいという問題点がある。ビデオを増やす,調査対象の巣を選ぶことによってその解決を目指すが,それでも追跡が難しいようならスニーカーに対象を絞ることも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来1年で使い切る予定だったが,調査期間を大幅に縮小したためにその一部を利用することとなった。そのために差額が生じた。2022年度の野外調査にこの差額を利用する。
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