本年度は新型コロナのために2年延長した後の最終年度であり、当初の計画通りのデータの補完と、昨年まで2年連続で野外調査がほとんどできなかった間に実施した、過去のビデオデータを用いた解析結果に基づいて設定した新たな仮説の検討に必要なサンプルの採集を行った。1か月の調査予定であったが、体調不良によって調査を2週間で切り上げることになったため、期待通りの成果を上げることはできなかった。しかし、この期間に後者のサンプル採集は終えることができたため、調査終了後は主にその解析を行い、1編の論文を投稿した。具体的には、高速度カメラを用いてスニーカーの運動の解析を行い、マウスナー細胞に駆動される特殊な加速運動が、捕食被食行動に限定されず、繁殖行動でも用いられることが示唆された。また、スニーカーはその加速運動から爆発的な遊泳(バースト)に移行し、さらに急減速し全身を激しく大きく速く震わせる運動をほんの1秒の間に繰り出し、放精するが、この法制に用いる運動は質的になわばり雄と全く異なっていた。前者の解析は中途半端な状態ではあるが、これまでのデータによると、スニーカーで観察された高度な認知行動というよりも、ランダムな動きに基づいた動きのパターンが観察された。 本研究期間を通した総括として、なわばり雄は巧妙な意思決定や特定の場所に固執した移動を持たないと結論付けられる。これは期待とは異なる結果であったが、なわばり雄は情報利用よりもランダムだが頻繁な移動によってスニーカーを見出そうという戦略を持っていた。この理由として、スニーカーが予測不可能性を用いた移動パターンを示していたことがあげられる。すなわち、なわばり雄はスニーカーの動きを上位法を用いて予測するのが難しいという可能性がある。
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