研究実績の概要 |
近畿北部地域個体群と東中国地域個体群に生息しているツキノワグマの分布は分断され絶滅が危惧されていた。2つの地域個体群の遺伝的多様性は低く,地域個体群の間で遺伝子交流はほとんど認められていないことが,先行研究で報告されている。報告者は東中国地域個体群と近畿北部地域個体群間で,遺伝的多様性が回復傾向であることを報告した(森光ら,2017)。今年度は,サンプルの少なく分析が遅れている紀伊半島のサンプルを収集し分析を実施した。マイクロサテライト6遺伝子座(Paetkau and Strobeck 1994. Kitahara et al.2000) (紀伊半島n=25)。過去1991年-2004年に捕獲された個体と2013年-2019年に捕獲された個体のヘテロ接合度を比較した。1991年-2004年に捕獲された紀伊半島地域個体群の,ヘテロ接合度は, HE 0.365であったが,2013年-2018年に捕獲された個体のヘテロ接合度は東中国地域個体群HE 0.375であり,それぞれ遺伝的多様性に大きな変化はなかった。ツキノワグマの地域間交流による遺伝子多様性維持機構の検討と繁殖個体の移出入率定量法の改善を目的に,Y染色体マイクロサテライトDNA標識(Bidon et al. 2014)がツキノワグマ研究に利用できるかを検討した。9種類の標識候補につき反復配列領域のPCR増幅条件を探し,塩基配列分析により試験試料を比較した。この結果,8標識では増幅産物が得られた。実験条件が決まった4標識(Y318.1, Y318.2, Y318.4, Y318.6)で紀伊半島の試料の配列を比べたところ,Y318.6では単位配列の反復変異が認められた。さらに分析を進め対象地域個体群の遺伝子交流についての詳細を進める予定でいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで近畿北部,東中国地域個体群の遺伝的多様性について同様に回復している結果を得ている。新たに紀伊半島の個体群の遺伝的多様性について,大きな変化がないことの情報も得ることができた。しかし,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,関係学会の発表は昨年度,中止となり職場の業務自粛にともない分析は現在止まっている。今後,自粛解除の後,精力的に分析を進める予定である。したがって,本研究は,やや遅れ進展していると評価した。
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