私達の研究室では、細菌などの微生物から胚を守る最初の防御機構となる鳥類の卵表面の撥水性(物理的防御)や脂質による卵表面の被覆(化学的防御)の機能を統合的に理解することをめざす研究に取り組んでいる。1回の繁殖で複数卵を産む鳥類の場合、親が不在の産卵期と、親がほぼ連続的に卵を温める抱卵期では、卵の置かれる状況が大きく異なる。鳥類では一般的に産卵期は巣に卵が放置され、抱卵期には親鳥は抱卵斑と呼ばれる腹部の皮膚が裸出した部分を卵に接触させて連続的に温め、頻繁に嘴で卵を回転させる転卵行動がみられる。このため鳥類は産卵期と抱卵期との間で卵表面からの細菌などの侵入を防ぐため対抗戦略が異なる可能性がある。 スズメ目鳥類(スズメPasser montanus、シジュウカラParus minor)を対象とした研究で、卵表面の撥水性は産卵期から抱卵期にかけて低下する傾向がみられた。卵表面の撥水性は繁殖ステージの進行に伴って低下したが、産卵期と抱卵期の卵表面の撥水性の差異には種間で違いがみられ、スズメはわずかで、シジュウカラは大きかった。 また抗菌作用を持つことが知られている尾脂腺(鳥類の尾の付け根にある分泌腺)に由来すると考えられる脂質を薄層クロマトグラフィーによって卵表面から検出することに成功し、卵表面を覆う脂質をSPV法で定量的に評価する方法を確立させた。 レーザー顕微鏡による一部サンプルの測定結果から、スズメの卵表面の撥水性が産卵期から抱卵期にかけてわずかに低下したのは、抱卵行動に伴う卵表面の凹凸の減少が原因だと推察された。シジュウカラでは親の尾脂腺に由来する脂質が抱卵期に卵表面に移行することが明らかになり、抱卵期には産卵期より卵表面の撥水性が大きく低下する傾向がみられた。
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