日本列島は約2500万年前、ユーラシア大陸東端部から離れた2つの陸地が元になって形成された。従って、日本に棲息する陸上歩行動物の祖先は全て大陸に由来することになる。地球上で繰り返し訪れた氷河期には海面が200m以上も低下したため、ユーラシア大陸と日本列島が陸続きになり、大陸から日本への陸上歩行動物の往来は可能であった。日本に移動した歩行動物はその後、列島に起きた様々な地形変化(陸地や海底の隆起による山脈の形成、海溝の陸地化など)の影響を受けながら日本国内を移動したと考えられる。従って、陸上歩行小型動物(両生類)の移動経路を明らかにすれば日本列島形成過程における地形や環境の変化を推測することが可能である。ところが、マンモスや恐竜などの大型動物とは異なり、両生類などの陸上歩行小型動物の日本国内移動経路は全く解明されていない。本研究は、日本国内195箇所で採集したツチガエル(両生類)のミトコントリア遺伝子(12S及ひ16S rRNA遺伝子)の塩基配列を基に時系列分子系統樹を作成して、日本列島の形成過程におけるツチガエルの移動経路の解明が目的である。我々は、最終年度までにツチガエルのミトコンドリア遺伝子の塩基配列を基に時系列分子系統樹を作成して、日本国内におけるツチガエルの移動経路を明らかにした。その結果は日本列島形成過程における陸上小型歩行動物の国内移動経路を解明するだけではなく、山脈の隆起や海溝の消失が起きた時代も推測することができた。また、九州南東部にツチガエルとは系統的に異なり新種と思われる集団(se-Kyushu)を見つけた(Oike et al. 2020)。ツチガエルより先に大陸から日本に移動したこの新集団は九州山脈の形成によって隔離され、独自に進化した可能性がある。本研究で得られた成果は、古地理学及び進化学の両分野の融合に大きく貢献すると確信する。
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