研究課題/領域番号 |
18K06437
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
伊藤 江利子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 (20353584)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熱帯林 / 違法択伐 / 土壌劣化 / 植生回復 / カンボジア |
研究実績の概要 |
カンボジア国コンポントム州の森林保護区内のフタバガキ科大径木択伐跡地に設置した12か所の調査地で採取した土壌試料の土壌理化学性分析を昨年度に引き続き実行した。伐倒方向の調査基準線に沿って択伐影響が異なる5つの調査区(樹冠区、未利用幹区、製材区、根株区、および伐採不実施の対照区)を設定し、伐採時および伐採以降の林床有機物供給が土壌劣化に与える影響を比較検討した。択伐跡地では最表層土壌(0-5cm)の土壌pHの低下および炭素窒素比の増加と土壌(0-30cm)の養分量(交換性塩基、特にCaとMg)の減少が認められ、土壌化学性における劣化が明らかになった。調査区のうち、樹冠区では最表層土壌の窒素濃度が対照区より有意に高かった。伐採時に供給された生葉など窒素を多く含む有機物の影響と考えられた。一方でpHと交換性塩基量は減少し、土壌劣化の徴候が認められた。未利用幹区では比較的軽微な土壌劣化に留まった。未利用幹区では伐採時の攪乱が通直な幹の落下のみと少なく、前生稚樹・下層植生が継続的に林床を被覆していたためと考えられる。製材区と根株区では伐採後の製材作業と搬出路の作設の痕跡が顕著に残存し、土壌劣化の徴候が大半の指標において認められた。調査区間で稚樹密度と稚樹サイズで指標した植生回復状況を比較した。樹冠区では伐採時の生残稚樹が良好な光環境下で生育していた。生残木には伐採時の樹冠の落下による損傷痕が認められた。前生稚樹は伐採時の樹冠落下で本数密度を下げる一方で、生残した稚樹の成長が良化することが示唆された。未利用幹区では植生回復も対照区にやや劣る程度で認められた。製材区と根株区では植生回復は人為的な地表攪乱が顕著な場所で特に疎であった。大径木伐採時における前生稚樹の保護は択伐後の植生回復可能性を高めるとともに、林床有機物の継続的な供給をもたらし択伐跡地の土壌劣化を抑制すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初3年で行う予定であった土壌調査を2年で完了していたため、土壌試料採取および輸入は新型コロナウイルス感染症の影響を受けず、土壌理化学性分析を順調に進めることができている。一方で、2020年度に予定した林床有機物分解試験の最終回収分は回収不可能と判断し、2回分の回収試料による解析に変更した。さらに2021年度に予定していた詳細な植生回復調査も実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
択伐跡地の土壌劣化と植生回復の質的な関係を明らかにする。本報告で記した植生回復状況は過年度までの概査による稚樹の本数密度データに基づくものである。植生が種組成においても択伐前と同様のものに回復するかどうかを評価するため、択伐跡地に生育する稚樹の種組成を調べ、択伐対象であったフタバガキ科およびその他の高木樹種の開空地における稚樹密度を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で海外調査が実施できず次年度使用額が生じた。研究期間を1年延長し、2022年度内の植生回復調査を行うための旅費等に用いる。
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